荒川修作の「三鷹天命反転住宅」 | 三太・ケンチク・日記

荒川修作の「三鷹天命反転住宅」

現代美術家の荒川修作 が自ら建て主となって建設する分譲集合住宅「三鷹天命反転住宅 」が10月20日、東京・三鷹市大沢で着工しました。荒川が全体的な集合住宅のデザインをしていますが、実務的な設計は安井建築設計事務所、工事は竹中工務店が担当しています。構造は壁式鉄筋コンクリート造で、地上3階建て、延床面積は約760㎡、分譲戸数は9戸となっています。住居ユニットが連結されて形を作っているところが特徴です。これが分譲住宅だというのだから驚きです。でもちょっと、これを見るとおもちゃ箱をひっくり返したような印象ですね。

安井建築設計事務所の佐野吉彦社長は、荒川修作のこの建物の設計を支援する理由として、「荒川さんの『身体性の復権』という考え方は、日本の建築界を変える重大な契機になると受け止めている。荒川さんが投じる『』によって、閉そく状態に陥っている建築界に波紋が生じるだろう」と話しています。「波紋」が生じてくれることを期待しますが、この小さな建築ひとつでは、日本の保守的な建築界はほとんど変わらないような気がしますが、いかがでしょうか?

荒川の作品は、「三鷹」の前に岐阜県にある「養老天命反転地 」というものがあります。これは「建築」というより、「ランドスケープ・アーキテクチャー」という感じの作品です。残念ながら、僕は行ったことがないので、詳しいことはわかりません。でも、「養老天命反転地 」、おおかたの評判はいいようですので、機会があれば行ってみたいと思っています。


今までにもこれと考え方が似ている建築はいくつかあります。まず、思い起こされるのはモントリオール万国博覧会のテーマ館「ハビタ67」ですね。これはイスラエル人の建築家、モッシェ・サフディがデザインしました。プレキャストコンクリートのボックスユニットを積み重ねていくという大胆な発想で、未来住宅を予見する形態を呈示したことで、当時はおおいに騒がれました。

もうひとつは、黒川紀章のデザインによる1972年に建てられた「中銀カプセルタワービル」、今でも「メタボリズム」の典型的な考え方、「取り替え・動かす」、という方法論が表現されているので、取り上げられる機会が多い作品です。新橋駅から歩いてもすぐ、東銀座7丁目、高速道路のすぐそばにあります。この作品の前に黒川は、1970年の大阪万博のお祭り広場上部の大屋根の中にある「空中テーマ館」で、「カプセル型住宅」を提案しています。




そこの「生活セクション」で、その頃の前衛建築家の未来都市構想の作品が展示されていたので見に行ったことを思い出しました。ほとんど憶えていないのですが、その中でひとつ、クリストファー・アレグザンダーの「人間都市 」というのが僕の目を引きました。その後、世界の建築界に衝撃を与えた「パタン・ランゲージ 」の萌芽がこの「人間都市 」に見られて興味深いものがあります。結局は「メタボリズム」の考え方とは対局をなすものでしたから。右の画像は、たまたま僕が持っている、昭和45年7月20日発行の「別冊都市住宅NO.1・人間都市」です。



荒川と同じ美術畑からは、画家フンデルトワッサー のデザインによるウィーンにある公営住宅「フンデルトワッサーハウス」があります。これは古い街並みの中でカラフルな建物が出現したことで成功したと思います。僕も見に行きましたが、衝撃を受けました。彼の関わったプロジェクトで、大阪にある「舞州ゴミ焼却場」や「舞州スラッジセンター」がありますが、いずれも「建築」というより単なる「外壁のデザイン」で終わっています。