最初で最後の「踊るサテュロス」展 | 三太・ケンチク・日記

最初で最後の「踊るサテュロス」展

1998年、イタリア南部シチリア島沖、水深480mの海底から一体のブロンズ像が引き揚げられました。両手、右足そして尻尾を失ったこの像は、酒に酔い有頂天に舞い踊るサテュロスを表現したものでした。ローマの中央修復研究所による4年にわたる修復を経て、二千余年の永い眠りから目覚めた「踊るサテュロス」。サテュロスは、ギリシャ・ローマ神話に登場する「森の精」で、葡萄酒と享楽の神デュオニソス(バッカス)の従者とされています。波打つ頭髪、首を傾げ高みを見上げる表情そしてひねりを加えた若々しい姿態。まさに跳躍しようとするサテュロスの一瞬を見事に捉えたこの像は、現在、ギリシャ古典彫刻の大傑作としてイタリアの宝とも称されています。
今回、奇跡的に発見されたこの像を、2005年「愛・地球博」(愛知万博)のイタリア・パピリオンでの出展に先立ち、当館で特別展示することになりました。この門外不出の第一級美術品がイタリア国外に持ち出されるのは今回が初めてです。
東京国立博物館のウェブサイトより


1965年のツタンカーメン展、1974年のモナ・リザ展、そして2005年、門外不出の世界の至宝の「彼」がやってくる。ちょっとオーバーのような気がしますが。でも、たった一点だけの展覧会、そんな展覧会は今まで僕は初めてでしたが、おおいに堪能してきました。その「彼」とは誰か?2000年もの間、シチリア島沖、水深480mの海底で眠っていた「彼」、7年前に奇跡的に発見された「彼」です。「踊るサテュロス」の「彼」です。


13日までで終わりだというので、大慌てで「踊るサテュロス」を見て来ました。会場は上野の東京国立博物館の「表慶館」。旧東宮御所迎賓館と同じ宮廷建築家片山東熊の設計。普段はあまり入ることがない建物です。正面入り口から向かって左手へ。法隆寺宝物殿へ行く方向、今回は表慶館の正面入り口ではなく横の入り口から入ります。でも入り口、半階分位階段で上らないと入れないので、あれはちょっとバリアフリーに反します。まあ、昔の建物は格式を重んじますから、だいたい半階分階段で上るようになっていますが。サテュロスの展示してあるホールが素晴らしい、ローマにあるブラマンテの傑作テムピエットのような空間。天井はドームが列柱の上にのっています。端正に纏まっています。


会場内はそれほど混んでいませんでした。5分ほどの解説ビデオがありました。NHKだったか、テレビで放映されたもののダイジェスト版のようです。7年前に漁船の網にかかったんですね。その船長さんが、引き上げられたときの印象をインタビューで答えていました。一回りして、そのビデオを見てから、また、サテュロス像を見ました。時々ドームを見上げたりしながら何周もしてきました。外周部はこの展示に合わせて50cmぐらい高くなっているのがいい。「踊るサテュロス」は、どこから見ても「さま」になってました。


踊るサテュロス」はブロンズ像、頭部の一部、両腕と右足、しっぽがなくなっています。昔から、左手に酒桶を持ち、右手に槍をもって踊る、絵画でもあったようです。酒に酔い、かろやかに飛び跳ねる姿は躍動的で美しかったです。背中や太股の筋肉も素晴らしかった。目は白い大理石が埋め込まれていましたが、黒目の部分がないために、ちょっと異様な感じがしました。しっぽが生えていた欠損部分の穴も、背中のど真ん中から生えているようでした。せめて片腕が残っていればとも思いますが、そんなことを言っても始まりません。あとはここにあるもので僕らが想像するだけです。会場には、この像を元に作られた石膏像が展示されていました。自由に触って形を確かめることができました。これ一点だけの展示会で入場料は800円。でも、得した気分です。「愛知万博イタリア館」より一足早く、ゆっくりと堪能しました。