エピック、アップルとの裁判前にArtStationを買収、手数料引き下げ―アップルを揺さぶり― | ボルタのブログ

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本文は、5月6日の日経新聞の要旨及びそれに関するコメントです

要旨

 Appleとアプリ配信の手数料などに関して法廷で争っているEpic Gamesは2021年4月30日、CGなどのデジタルアートに関する投稿や配信、学習などを手掛けるアーティストポートフォリオコミュニティ「ArtStation」を買収し、直ちに手数料をこれまでの30%から12%に引き下げることを明らかにした。エピックゲームズが抱えるゲーム開発ツール「Unreal Engine(UE)」の開発チームとArtStationが密接に協力していくことで、クリエイティブコミュニティーを強化したいとする。

 12%という手数料は、Epic Gamesのゲーム配信サービス「Epic Games Store」と同じだ。Epic Gamesは、AppleのApp Storeのビジネスモデルに対して史上最大級の訴訟を起こしている。そして、裁判でAppleを揺さぶる狙いがありそうだ。

 今回の買収でEpic Gamesは、手数料を標準で従来の30%から12%に下げるほか、ArtStationの「Pro」会員(月額9.95ドルのサブスクリプションが必要)は従来の20%から8%に、セルフプロモーションによる販売では、5%に引き下げる。グラフィックスの制作などの方法などを学べるアーティスト向け学習サービス「ArtStation Learning」に関しては、21年中は全ユーザーに対して無料で提供する。

 買収後も、ArtStationは独立して運営されるという。また、ArtStationは、従来通りUEの利用の有無にかかわらず、すべてのクリエーターが利用できるという。

 

コメント

・Epic Gamesは、その名の通り「フォートナイト」等のゲームの運営や、ゲーム等の開発エンジンの開発・販売を行っている。

・独立性を強調するためか、今回の手数料引き下げの詳細は、エピックゲームズのプレスリリースではなく、Art Stationの公式ブログで発表していた[1]

・Epic Gamesの親会社は中国最大級のIT企業のテンセントだ。同社の売り上げの半分はゲーム部門が占める。しかし、テンセントは引き続きEpic Gamesの株を維持し続けられるかはCFIUSとの交渉次第だ。場合によっては、テンセントはEpic Gamesの株を手放すこととなる。

・今回の訴訟はAppleによる独占禁止法違反のみでなく、App Storeの手数料が高すぎ、それによって開発者やユーザーが不利益を被っているという主張も争点となる。(Fig.1)

Fig.1 今回の裁判におけるAppleとEpic Gamesの主張とそのポイント

 

・Appleは、今回のEpic Gamesの手数料引き下げという揺さぶりに対して、今年1月からAppleが年間売上高100万ドル以下の開発者を対象に手数料を15%に引き下げたという実績引き合いに出すとみられる。

・現状、アプリの配信はGoogleの運営するGoogle Play StoreかAppleの運営するApp storeがほぼ独占状態だ。そして、その市場規模は20年に1109億ドル(約12兆100億円)まで拡大している。このアプリ市場にてAppleの世界シェアは65%だ。また、アプリ市場におけるゲームのシェアは、72%にも及ぶ。

・裁判の行方は多くの利用者やアプリ開発者に影響を与える可能性がある。Epic Gamesの主張が認められ、iOSを搭載した機器でもApp store以外の配信サービスが利用できるようになれば、Appleも手数料を下げる可能性がある。それによって、アプリ開発者の収益拡大やアプリ価格の下落につながる。しかし、だれでも参入できるということは、Appleのいうように、マルウエア等の被害が増える可能性がある。

・また、Appleが「独占」と認定されると、「箱庭」などと呼ばれる他社の事業モデルにも逆風になる。場合によってはEpic Gamesすら、自身が運営するEpic Games Storeすら違法になりかねない。このことに、Epic Games、ひいてはテンセントは気づいているのだろうか。

 


[1] Epic Gamesによる買収及び手数料の変更を伝えるArt Stationのプレスリリース URL:https://magazine.artstation.com/2021/04/artstation-is-joining-the-epic-games-family/