グリーンランドの総選挙、米中関係の大きな転換点になる可能性 | ボルタのブログ

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本文は、3月30日の日経新聞の要旨及びそれに関するコメントです

要旨

 デンマーク領グリーンランド(Fig.1)は4月6日に、総選挙を実施する。地政学やエネルギー安全保障の観点での重要性が増している。選挙結果次第では欧米の資源戦略を大きく揺さぶる事態とあって、注目が集まっている。

Fig.1 グリーンランドの位置

 

 2月半ば、グリーンランド自治議会は解散総選挙を決めた。同島南端のレアアース採掘計画を巡り、連立政権を支えていた政党が離脱を決めたためだ。選挙の争点は資源開発計画と注目されている。

 開発計画には大きなリスクが二つ伴う。一つは採掘地区周辺の環境悪化の懸念だ。レアアースの開発ではウ放射性物質が同時に採掘されることが多い。採掘地周辺に悪影響をもたらし、農業や漁業に影響を与える可能性がある。さらには、大規模な採掘に伴う二酸化炭素排出量増加の懸念だもある。

 もう一つは事業に中国が関与しようとしていることだ。レアアースは電気自動車(EV)のモーターや風力発電タービンに多く使われている。この開発計画の事業主体はオーストラリアのグリーンランド・ミネラルズだが、同企業の筆頭株主は中国の企業である盛和資源控股だ。グリーンランドはNATO加盟国デンマークの一部で、米軍基地もある。

 米国やEUはこのほどレアアースの供給網多様化を急ぐ方針を公表している。グリーンランドのレアアース埋蔵量は世界7位で、開発が進めば中国への依存を減らせるとの期待がある。それだけに、世界有数の規模となる同島南端での採掘計画への中国の関与に警戒感は強い。

 シンクタンク「極地研究政策イニシアチブ(PRPI)」創設者のメネゼス氏は「豊富な資源と、北米や欧州、アジアを結ぶ効率的な海路や空路を考えると、グリーンランドが21世紀の地政学の中心になるのは間違いない」と主張する。トランプ米前大統領はグリーンランド購入構想を掲げ、同島に米領事館を設けた。中国もインフラ整備支援などで接近をはかる。

 グリーンランドはデンマーク領だが、外交や安全保障などを除いて広範な自治権が認められている。だが現状はグリーンランドは歳入の半分以上をデンマークからの補助金に頼っており、独立には経済面での自立が欠かせない。

 グリーンランド経済は主に漁業や観光などで成り立つが、成長にはその多様化が必要だ。中国の支援が魅力的に映っても不思議ではない。PRPIは3月、中国に対抗ため、「ファイブ・アイズ[1]」の5カ国がレアアース確保の観点からグリーンランドへの関与を強めるべきだとの提言を公表した。

 

コメント

・レアアースは、中国に残された数少ない外交上の手札である。そして、中国は台湾に兵器を売却した米軍需企業などに禁輸措置などをしている。しかし、この措置はWTO違反となる可能性が大きい。なぜならば、過去に日本も中国から一方的にレアアースの輸出規制を受けた。そのため、WTOにて裁判を起こし日本側が勝訴となっている。

・中国は、バイデン大統領が副大統領を務めたオバマ政権時からグリーンランドへ積極的に進出していた。オバマ政権時から既に国防省などはその危険性を訴えていた。しかし、オバマ政権は、中国のグリーンランド進出を問題視しなかった。そして、トランプ政権は、その危険性に気づき、グリーンランド購入構想を掲げるも、中国と密接な関係にあるデンマークによって却下された。

・では、なぜ、グリーンランドに中国が進出するとアメリカが危機感を覚えるのかというと、アメリカののど元にナイフが常に突き立てられたような状態になるからだ。Fig.2はグリーンランド中央部から3000、4000、5500Kmで同心円状を引いた図である。

Fig.2から、中国がグリーンランドに基地を建設すればいつでもアメリカの要衝を攻撃できる状態になることが分かる。そして、前述したトランプ政権でのグリーンランド購入構想は中国からアメリカを守るために構想されたものであったことが分かる。グリーンランドは、経済、安全保障両方で地政学的に大きな意味を持つ要衝であることがよくわかる。

Fig.2 グリーンランド中央部から弾道ミサイルの射程ごと(3000(DF-17),4000(DF-31AG)、5500Km(DF-41))同心円を引いた図

 

・今後、中国はアメリカとの交渉を有利に進めるために、より一層格安でグリーンランドにインフラ開発を持ち掛けてくるだろう。しかし、グリーンランドはそれが罠であると理解し、欧米諸国と緊密な連携を取っていくことが必要となる。

 


[1] ファイブ・アイズ:オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカによるUKUSA協定に基づく機密情報共有の枠組みの呼称。