米大学発ベンチャー企業、大容量全固体電池を発表―EV運用には課題多数― | ボルタのブログ

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本文は、12月17日の日経クロステックの要旨及びそれに関するコメントです

要旨

 米Solid Powerは12月11日、重量エネルギー密度が330Wh/kgの全固体電池のパウチ型セルを開発し、評価用にサンプル出荷を始めたと発表した。(Fig.1)セルの容量は20Ahで、正極/電解質/負極の層22層からなるという。

Fig.1 今回発表した20層、20Ahのセル(左)と2020年10月発表の10層、2Ahのセル(右)

 

 同社は20年10月に容量が2Ah、層数が10層で重量エネルギー密度が320Wh/kgの全固体電池の試作を始め、21年に製品化、26年には車載用電池として出荷する計画を発表していた。想定利用温度は室温~70℃だとする。

同社は今後、重量エネルギー密度を400Wh/kgにまで高める方針。また、22年初めには正式な車載用途向けの性能評価を始める計画だという。

 Solid Powerは12年に設立された大学であるUniversity of Colorado発のベンチャー企業。これまでにドイツBMW、日本の三桜工業、韓国Hyundai、同Samsung 、米Fordなどの出資を受けている。

 Solid Powerの全固体電池は固体電解質に硫化物系材料、負極に金属リチウム(Li)を用いている。金属Liの負極は、一般には充放電を繰り返すと「デンドライト」と呼ばれる棘のようなLiの析出物が負極から正極に向かって成長し、容量が低下する。最悪の場合、発火事故などにつながる課題がある。

 Solid Powerはそれへの対策の詳細は明かしていない。しかし、今回、2層の試作セルに対する充放電サイクル時のデータを公開し(Fig.2)、少なくとも充電や放電がそれぞれ20時間というゆっくりした充放電であれば250サイクルまでは大きな問題がないことを示した。

Fig.2 2層の試作セルの充放電サイクル時の容量

 

 一方で、より速い充放電にはやや課題があるようだ。具体的には、容量2Ahのセルにおいて温度29℃で放電レートを次第に高めると放電容量が大きく低下。1時間で放電する値である1Cの場合で、放電容量は遅い放電時の数%にまで低下した。また、温度を高めると低下幅は短くなり、70℃では20分放電にて3Cでも遅い放電時の80%と低下幅は小さかった。

 上とは別の2cm2と小さなセルでは、温度29℃で普段は通常充電、ときどき急速充電というパターンを繰り返した場合は、100サイクル後の容量維持率は約97%という結果だった。この容量の低下傾向が続く場合は1000サイクル後に容量は初期値の約74%、3000サイクル後は同40%となる。民生品なら問題がないが、EV向けとしてはこのままでは厳しい。

 

コメント

・日本では、TDKや村田製作所、マクセル、トヨタなどが製品化に向け一足先行している。

・そうした中で、鉛蓄電池も大きく性能を上げ、モノによってはLiイオン電池を超える。これも日本メーカが先行している。

・また、充電速度に優れるカリウムイオン電池も日本メーカが―先行して開発している。

・今後、Liイオン電池は全固体電池へと次々と代替わりしていく可能性が大きい。

・EVにおいて、その進化にあたって大きな壁として存在したのは、電池の性能だった。電池の容量が少ないため、走行量等に大きく制限がかかっていた。さらに、電池に熱を加えると、電池の容量が下がるという問題もあり、設計をより困難なものへと変えていった。

・大容量の全固体電池の開発はまだまだどこも達成がなかなか進まないのが現状だ。

・大容量かつ、サイクル数が多くても容量が減りにくい電池の開発に成功すれば、EV業界にとってゲームチェンジャーとなるだろう。