「ここ……?」
「なんで?」
入口で尻込みしているジェジュンを見て、ユチョンがやれやれと言った様子でため息をついた。
「なんか……」
「なんだよ」
「場違いって言うか……」
「周りからはそんな風に見えてないって。
黙ってたらお前毎晩のようにこういう所で遊び慣れてる感ありありだぞ?
堂々としてりゃいいんだよ?
すでに女の視線がお前に集まってるの気づかない?
絶対モデル関係だと思われてるって。
せっかく来たんだから一晩くらいハメはずせっ!」
ほら早くとユチョンに背中を押され、ジェジュンは身体を縮めながら、クラブの中に足を踏み入れた。
大音量で音楽がかかり、室内は人で溢れかえっていた。
ジェジュンはその喧騒になぜかほっとした。
こんな場所なら万が一のことがあっても向こうも自分に気づくはずがない。
どこに誰がいるかなどわかるはずはないと。
そう思い立ってから、少し自分が恥ずかしくなった。
何を期待していたのだろう。
そもそもモデル事務所なんて沢山ある。
ここにあの人がいるなんてこと可能性の一つでしかないし、自分の存在など、記憶の彼方に忘れ去られているに決まってる。
なのに気付かれることを恐れるなど、全く馬鹿げたこと。
俯き加減になっている間に、いつの間にかユチョンは人混みの中に紛れて行ってしまったようで、ジェジュンは仕方なくどこからともなく差し出されたビールを手に取ると、それを一気に飲みほした。
酒自体は嫌いではない。
バイト帰りにコンビニに寄って買った缶ビールを、風呂上がりに開けるのは楽しみの一つだ。
冷えたグラスに注がれたこれは、いつも飲むビールより数段美味しく感じられたし、あと二杯ほど口にしたらさっさと帰ればいいと決めたら幾分気が楽になった。
酔いが回ると無防備になる自分を良く分かっているだけに、雰囲気に飲まれないように気をつけるだけだ。
ただ二杯目のグラスを半分ほど空けたあたりで、ジェジュンの周りにはやけに人が集まっていた。
自分では望んでもいないのに、注目を集めてしまうのは昔からだ。
容姿が人より少し華やかなだけで、他は大した違いはないのに、それを分かってくれる人はあまりいない。
それにすぐ気づいてくれた人がいた。
ずっとずっと前に───
また感傷的な気分になってきた。
生活に変化をつけるのは嫌いだ。
こういう風に何かにつけて思い出が蘇るから。
一人なのかと声をかけられたり、どこかのモデル事務所に所属しているのか、とか赤の他人に詮索されるのにうんざりし始めて、三杯と決めていた酒を二杯で終わりにして、店の出口に歩き始めてたジェジュンの足が止まったのは、耳に届いた微かな笑い声だった。
心臓を鷲掴みにされたみたいに、急に息が苦しくなる。
忘れるはずがない。
この笑い声が大好きだった。
屈託がなくて、心底楽しげで。
その時の笑顔もいつもジェジュンの胸をどきどきさせた。
太陽みたいに明るく笑う人。
咄嗟に声の聞こえた方に目を向けてしまった。
恐らくVIPルームになっているのであろうクラブのロフト部分。
その手すりの向こうに長身の影があった。