★有馬康晴氏の歴史的評価

 将棋月報を支援し詰将棋の発展に寄与。又、課題作品を多数募集することにより、後の雑誌でも課題作を募集する先駆となった。

 図研会という若手の詰将棋グループの奔りとなるサークルを育てた。

「詰将棋吹き寄せ」「詰将棋づくし」という当時のアンソロジーを残し詰将棋の散逸を防いだ。

後の全国詰将棋連盟の先駆けとなる「日本詰将棋作家協会」の設立に協力した。

詰将棋的にも、難解で長手数な作品が評価された時代でありながら、当時余り評価されなかった軽趣向作を多数残した。

 

★有馬康晴記憶すべき作品

出来るだけ作品発表順に紹介します。(【 】内が引用部分です)

①15銀打、25玉、26銀打、16玉、17銀打、27玉、A28銀、16玉、17銀引、25玉、26銀引、14玉、15銀引、23玉、B24銀、14玉、15銀上、25玉、26銀上、16玉、17銀上、27玉、C29飛、同成桂、28歩、同成桂、同銀、16玉、17銀上、27玉、39桂、同飛生、28銀、16玉、17銀引、25玉、26銀引、14玉、15銀引、23玉、24歩、32玉、42歩成、同香、54角、43歩、23歩成、同玉、24銀、14玉、15銀上、25玉、26銀上、16玉、17銀上迄55手詰

 銀知恵の輪の好作です。銀を打ち果たした後折り返したBの局面で24歩~42歩成とすると5筋に飛車が効いていて54角と打てません。そこで飛車を逸らさなくてはならないのですが、その為にCで29飛とし同成桂、28歩と打って桂を剥がし39桂と打って飛車を逸らします。そうであるのなら、Aで29飛としたかったのですが、23歩があるので、28歩が2歩で打てません。その為に一度23歩を消去する追い戻しが必要になる訳です。戻って19成桂を剥がし39桂と打った手に対して、同飛生と応じるのが好手です。再度下段に追って角を入手し、54角と打ち再度上部に追い17銀上で詰む。何と54角が限定打で連動していたのです。見事です。

 

② 59龍、67玉、68龍、56玉、66龍、45玉、46龍、34玉、44龍、23玉、22と、同玉、21桂成、イ23玉、22成桂、同玉、12桂成、32玉、22成桂、同玉、24龍、32玉、22龍、43玉、33龍、54玉、44龍、65玉、A74龍、56玉、76龍、45玉、46龍、34玉、44龍、23玉、24龍、32玉、22龍、43玉、33龍、54玉、44龍、65玉、B55龍、76玉、66龍、87玉、88歩、同と、86龍、78玉、88龍、67玉、68龍、56玉、66龍、45玉、46龍、34玉、44龍、23玉、24龍、32玉、22龍、43玉、33龍、54玉、44龍、65玉、55龍、76玉、66龍、87玉、86龍、78玉、C79歩、69玉、66龍、58玉、68龍、49玉、59龍、38玉、39龍、47玉、D48香、56玉、36龍、67玉、66龍、58玉、68龍、49玉、59龍、38玉、39龍、E27玉、17金、同香成、37龍、18玉、17龍、29玉、19龍、38玉、39龍、27玉、37龍、18玉、19香、29玉、39龍迄113手詰

イ作意は同玉、12桂成以下2手短いが作意の御設定

 有馬氏の最長手数作品。少し不規則軌道の龍追いです。①先ず捌きながら舞台づくりの龍追いでスタート。②Aで55龍と追うと88歩と打てないので74龍と1歩補充してもう1回下段に折り返します。③今度はBで55龍として88歩を打って98とを剥がします。④C79歩と打って下段に折り返せないようにします。⑤別軌道に入り成香を剥がしD48香と打ちこのルートも塞ぎます。⑥全ての逃げ道が塞がれE27玉のルートに入り香を剥がして詰み上がります。不規則な軌道ながら易しい龍追いに仕上がっていて、100手を超える当時の長手数作品を簡単な手順で実現したのは価値があると思います。

 

③83香、71玉、72香、61玉、25角、同歩、62歩、51玉、52歩、42玉、32歩成、53玉、54銀上、64玉、56桂、73玉、74歩、83玉、84歩、82玉、83歩成、同玉、88飛、同角成、73歩成、同玉、85桂、82玉、93香成、81玉、73桂生迄31手詰

 門脇芳雄氏の「続詰むや詰まざるや」より解説を引用します。

 【本局は「香短打」および「香先香歩」の手筋が主題の構想作である。

 初手83香打の短打が妙手。普通は「香車は下段から打て」と言う格言通り84香と打つのであるが、うっかり84香だと17手目玉の逃げ場がなく、74歩が打歩詰になる。83香と一間浮かして打つことにより、17手目の74歩に83玉の逃げ道を作り、打歩詰を回避するのである。3手目の72香も洒落た手で、うっかりここで72歩と打ってしまうと、17手目の74歩が二歩で打てなくなってしまう。本局は手順が終始軽妙で、有馬康晴の代表作である。】

 門脇氏の解説では触れられていないのですが、最終手の73桂を成立させる為に25角、88飛と捨てて55角を逸らす伏線も見事です。

 

④ 15歩、同玉、27桂、14玉、44飛、34歩、同飛、23玉、35桂、22玉、23歩、11玉、12歩、同玉、24桂、11玉、22歩成、イ同飛、31飛成、21香、12角成、同飛、23桂生迄23手詰

イ同玉は12桂成、同玉、甲32飛成、11玉、12角成迄23手の変同

甲で33飛成の余詰あり

 小品ですが好みの作品で、34歩の捨て合を交えて桂を跳ねるのが楽しい。ただ、イの変同があり希望限定なのは痛いですが、当時は気にしなかったようです。私なら39桂を配置し3段桂跳ねにしたでしょうが、原図の方が纏まりが良い配置ですね。

 

⑤97歩、95玉、96歩、94玉、95歩、93玉、94歩、83玉、73金、84玉、74金、85玉、75金、86玉、76金、87玉、98金、96玉、97金、95玉、86金上、84玉、85金右、83玉、93歩成、同香、同香成、同玉、95香、83玉、94金、92玉、84金、81玉、71香成、同玉、61歩成、81玉、92銀、同飛、同香成、同玉、93飛、81玉、71と、同玉、91飛成、72玉、62香成、同玉、61龍迄51手詰

 97歩から73金で折り返す追い趣向。更に98金として再度折り返す、簡単な仕組みでの1往復半は発見でしょう。収束も少ない駒数で上手く纏めています。

 

⑥15飛、23玉、13飛成、同玉、25桂、23玉、15桂、同銀、33桂成、同玉、34歩、24玉、33歩成、同玉、25桂、23玉、35桂迄17手詰

 桂を打てるように指していけば詰む作品なのですが、リズム感が良いと思います。詰み形は25桂・35桂と並べる形しかなさそうなので、それに向かう為に、35歩消去をしますが、35桂と打つ為に15桂と銀を逸らす。簡単ながら理知的な仕上がりで、好みの作品です。

 

⑦当時の結果稿を引用します。

【28桂、15玉、27桂、14玉、26桂、13玉、53飛成、同歩、18香、イ22玉、34桂、23玉、35桂、24玉、36桂、25玉、24桂、ロ58桂成、同角、24玉、23桂成、同玉、22桂成、同玉、32香成、同玉、43銀、22玉、23歩、同玉、34銀成、32玉、43成銀、41玉、33桂、31玉、21桂成、同玉、23香、31玉、22香成、同玉、33と、31玉、32と迄45手詰

変化

イ14金合なれば12飛成同歩14香22玉12香成同玉13歩同玉14香23玉34と22玉12金迄

ロ58桂成の所直ちに24玉なれば以下本文へ続き41玉の時96角と銀を取りて本文より十手早し。

解説 小林 豊

本局の趣向は図巧64番4桂の追戻しの壘を摩す好局と思ひます。大部分の解答はイの14金合の変化詰及びロの58桂成を抜いた35手詰でした。96銀のオトリ駒は面白いと思じます。解答者もその内容より推して有馬氏作ならんと附記されてありました。

鑑評 豊島 誠次

一見して3桂追詰の趣向を露呈する本作は、他の優作(例へば岡田秋霞氏作)が主題に至る迄に巧妙な前奏的伏線を有するに対して、やや劣位に立つ如き感あるも、中盤に於る手順の妙は又他に容易に求め難き味を蔵し、補ひ得て余りあり。殊に3桂の華麗なる跳躍と共に含蓄ある66桂迄が姿を消す如き、或は18香に14金合の変化の如きは面白い、只96銀は全体の諧調を乱すやうで何となく惜しまれる。桂を主題とする趣向作品としては故秋霞氏の作と並んで讃ふ可き近来の傑作。衷心より作者に敬意を表して妄評の筆を置く。

短評

雪島氏「当然質駒と思はれた96銀が伏兵、58桂成を咬まして角を反撃する意地悪き作者の陥穽よ」

鴨下氏「58桂成が頗る好手で、攻撃軍より守備軍の方が活躍目覚ましきは勢力の均衡を欠くと思ひます。然し本局は却々の名作です。」

蒐集生「3桂の活動妙味津々たり。妙作の部なるも58角の再活用出来ざるは残念。58桂成捨を58角合とし、この合を取らず96角と銀を取りし時は85合等をする作意も亦妙也と思はれますが」

作者曰く

本作は昭和17年10月三代宗看の斜め4桂の3段跳びの作にシゲキされ初め縦の4桂3段跳びの趣向で作ったのですが、成功せぬので本作の如くに変更したのです。

解答者は19名でその中正解者は鴨下、蒐集生、豊島、雪島、伊藤園義、亀井の6氏でした。因に得点は90、81、90、80、87の各点でした。】

 3桂を打ちそれを2回跳ねだして消去する名作で、合間に18香の遠打(14金合の軽妙なへんかを内包)や58桂成の移動中合が入り見事な作品です。96銀や58角が取り残された感はありますが、それは欲張りというものでしょう。

 

⑧ 36銀、56玉、A45銀打、65玉、B54銀打、74玉、63銀上不成、65玉、54銀上、56玉、45銀上、47玉、37角成、同玉、27金寄、同と、同金、46玉、36金、55玉、47桂、64玉、56桂、73玉、65桂、82玉、C74桂、91玉、81銀成、同玉、72銀成、同玉、94角、同歩、73金、61玉、53桂生、52玉、44桂、42玉、43銀成、同玉、55桂、53玉、63金、42玉、43歩、41玉、31香成、同玉、34香、22玉、33香成、12玉、23と、11玉、12歩、同龍、同と、同玉、13歩、同玉、14飛迄63手詰

A45銀同玉46銀54玉55角成43玉54銀42玉43歩以下早詰

B54銀同玉55銀65玉64角成56玉38角同成桂45銀同玉54銀56玉65馬以下早詰

C83歩や81銀成や71銀生でも詰む

 以下も余詰多数あり。銀追い桂追いから桂跳ね等で上手い作品でしたが、キズだらけです。修正図を考えてみました。

36銀、56玉、45銀打、65玉、54銀打、74玉、63銀上生、65玉、54銀上、56玉、45銀上、47玉、37角成、同玉、27金寄、同と、同金、46玉、36金、55玉、47桂、64玉、56桂、73玉、65桂、82玉、74桂、91玉、81銀成、同玉、72銀成、同玉、94角、同と、73金、61玉、53桂生、52玉、63金、42玉、43銀成、同玉、35桂、42玉、43歩、33玉、24と右、22玉、23桂成、11玉、12歩、同龍、同成桂、同玉、A13飛、22玉、23と迄57手詰

Aで14~19飛、22玉、13飛成、32玉、33龍でも詰むキズあり。

 

⑨44香、43桂、同香生、51玉、41香成、同玉、53桂、51玉、61桂成、同玉、65香、63桂、同香生、71玉、62香成、82玉、63成香、93玉、84と、同玉、96桂、同香、85銀、93玉、94銀、同玉、92飛成、84玉、85金、同玉、83龍、84飛、76角成、95玉、87桂、同飛成、94龍迄37手詰

この作品も塚田正夫先生の解説を引用します。塚田先生はこの作品を傑作と有馬康晴作品集では紹介しています。

【妙味ある中合いの傑作

 本題は丁度、浮雲のような駒の配置が面白いばかりでなく、僅かの駒数で相当な手筋があり、傑作と言えませう。

一見44香打51玉、42飛成、61玉、43角成以下、簡単に詰みのように見えますが、玉方に巧妙な中合いの手段があり、複雑な変化が生じます。駒の配置から見て、玉を5筋から9筋に追い、一転、上部へ圧迫して行けば成功しそうな形です。詰物を解くには作図の意図をまづ嗅ぎ分ける練習が大切です。

 攻方の44香に対して、玉方43桂の中合いは妙味がある。直ちに51玉では簡単に詰む。攻方は角の見通しをつけるべく41香成と捨て53に桂を打って角が61桂成と捨て64香打を作った味などは、詰将棋に対する作者の力量が感ぜられるのです。しかも再び63桂の中合により(直ちに71玉では62飛成、81玉、54角成で早詰)玉を上部に脱出させ、96桂とかけ香を釣出す味などは筆紙に尽せぬうま味があります。96桂の処、76桂では76への角成りが消えて僅かに不詰。また96同香の処74玉なら34飛成、63玉、54角成、62玉、32龍、52合駒、63銀以下詰み。合駒の妙と、殆んど全部の駒が活躍する処にこの作品の優秀さがあります。】

 簡素な図から2度の桂中合。最後96桂の好手も捻りが効いて、飛合を動かして詰ます。あまり知られていないが、塚田先生の仰る通りの傑作です。

 

⑩ 23と、21玉、33桂、11玉、17飛、同と、21桂成、同玉、13桂、11玉、77角、同香、21桂成、同玉、33桂、11玉、16飛、同と、21桂成、同玉、13桂、11玉、77角、同香、12香迄25手詰

 この作品は不思議な作品で、初出が不明です。有馬康晴作品集でも出典はありません。配置的には将棋月報と思われますが、見当たりません。風ぐるまで有馬康晴氏の作品を紹介したことがあり、その時の図面のみT-BASEに集録されています。桂4枚を打ち換えながら大駒4枚を捌き捨てる傑作だと思います。

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完全だったら代表作になっていたかもしれない作品を番外で紹介します。

番外

62歩、同玉、73金、同角、53金、61玉、62歩、同角、同金、同玉、53角、61玉、62歩、52玉、75角生、A62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、86角生、B62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、97角成、C62玉、53馬、61玉、73桂、同角成、62歩、同馬、同馬、同玉、53角、61玉、62歩、52玉、35角生、42玉、53角生、41玉、42歩、52玉、26角成、42玉、53馬、41玉、31馬、同玉、21飛、同玉、33銀生、12玉、13歩、同玉、22銀引生、14玉、15歩、同玉、24銀生、14玉、13銀引成迄65手詰

A~Cで55香合(桂合)で不詰。

 左右で角不成の連取を同じ角で行うのは画期的な作品で、収束も55手目33銀生も伏線手で上手い纏め方です。角を切り替える仕組みも面白く、完全なら代表作だったでしょう。ただ、35とを取る時期は非限定なので一寸不味いでしょうね。

この作品の原図は次図でそれを図研会の作品集で改作したのですが、不完全なのは残念でした。

原図:53角生、61玉、62歩、52玉、44角生、42玉、53角生、41玉、42歩、52玉、75角生、62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、86角生、62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、97角成、62玉、53馬、61玉、62香迄27手詰

 

修正案を作ってみました。

修正案:62歩、同玉、73と、同角、53金、61玉、62歩、同角、同金、同玉、53角、61玉、62歩、52玉、75角生、62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、86角生、62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、97角成、62玉、53馬、61玉、73桂、同馬、62歩、同馬、同馬、同玉、53角、61玉、62歩、52玉、35角生、42玉、53角生、41玉、42歩、52玉、26角成、42玉、53馬、41玉、31馬、同玉、21飛、同玉、33銀生、12玉、13歩、同玉、22銀引生、14玉、15歩、同玉、24銀生、14玉、13銀引成迄65手詰

この図に玉方64とを加えれば71手詰になります。

原図はもし完全だったとしても35とは早めにとることが出来る非限定がありますが、修正案では42香を配置することによって、35とを先に取ると55香合で詰まないという原図の不詰順で剥がす順番を限定しています。

改作図:62歩、同玉、73と、同角、53金、61玉、62歩、同角、同金、同玉、53角、52玉、64角生、61玉、62歩、同玉、53角生、61玉、62歩、52玉、75角生、62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、86角生、62玉、53角生、61玉、62歩、52玉、97角生、62玉、53角成、61玉、73桂、同馬、62歩、同馬、同馬、同玉、53角、61玉、62歩、52玉、35角生、42玉、53角生、41玉、42歩、52玉、26角成、42玉、53馬、41玉、31馬、同玉、21飛、同玉、33銀生、12玉、13歩、同玉、22銀引生、14玉、15歩、同玉、24銀不成、14玉、13銀引成まで71手詰

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 江戸幕府が崩壊し、将棋家も無くなっていった明治期から戦前までの作品は、研究が今一つだと思います。その中で現れた酒井桂史は本当に天才だと思います。それに続いた主に将棋月報に作品を発表した詰将棋作家の中で、有馬康晴氏は色々なジャンルの作品を残し、また著述や懸賞など当時の詰将棋界に多大な貢献をされました。

 今回偉大な先達の業績を振り返れたのは意義あることだと思います。

 

↑ここまでが歴将会で配布された資料です。次回は資料としては配布しませんでしたが、書いておきたいことを補足します。