9月10日
手術前の必要な確認を、担当女史と、やり取りしてるとき、彼女の口から
全摘という言葉を聞いた、、
慌てて立ちあがり、彼女の持つボードを覗き込んで、その走り書きの文字を見て驚いた!

やっぱり全摘と書いてある、、
これは胃を全部取ってしまうことだ、、
いや、待てよ、癌だけ全部取る意味か?、、そうじゃない!

当然本人が了解済みで話してる彼女は、俺の鬼のような形相で訴える
「間違いじゃないんですか」に目が点になってしまった、、
実は、この最悪のパターンは、入院前のしつこいネット検索で、知ってはいた、
初期でも胃の入り口にできた場合、こうなることは珍しくないことを、、

全ては、内視鏡レベルに安堵し、固執した俺の勝手な思い込みだった、、

開腹手術とは全摘だったのか確かめたい、、と、気がつけば内科外来の受付前にいた、、
あいにく先生は休みで、連絡先は教えられないと、告げられた、、
今、午後2時だ、4時半の外科の先生の説明まで、待つしかない、、

茫然と隣病棟の壁を見つめ、術後の食生活や仕事のあしかせになることばかり考え、
渦のように悪いことばかりが、ぐるぐる体を締め付けた、、

3時頃
手術前の準備を説明するN看護士も、どんな手術か、もちろん承知だった、、
だから、つい、彼女に不満を漏らしたら、、
気持ちは良く解るという表情で、自分の手術の実体験を話してくれた、
そして
「先生に良く聞いて、自分で納得して決めればいいんですよ」と、、

癌の転移の恐ろしさは親父の時に経験してる、、
内視鏡で危険を犯すより、開腹手術が確実と言った、内科の先生の言葉がよぎる、、
そうだな、命をとるのが優先だ、、

おかげで、覚悟ができたのか、執刀の先生の希望の持てる説明を、落ち着いて聞くことができ、
まな板の目をつぶった鯉になった、、

9月11日 火
体が揺れ、ガチャガチャとベットをすべらす滑車の音がする、、
病室に戻ってきたんだろう、
「終わったよ、成功したよ」の声が聞こえた、、
「ありがとう」と、数人の人影に、目は半開きで答え、すぐまた朦朧となり深い眠りに沈んでいった、、、

こうして、とうとう61年間連れ添った胃と、お別れしたのだが、
弟が開いた手の平くらいの、それは、とても綺麗で、
病巣も、これが癌なのかと思うくらいだったと、、

実に悲しいことだ、、最後に一目見ることもなく俺の胃は、
いまごろ何処かにポイと捨てられたのだろうか、、

でも、stage1の検査結果が出て、転移が無く、命と引き換えになったことは
運がいいと言わざるを得ない、、

全粥から米粒がはっきり分かるようになるまで、 取り巻く担当の人達の優しさにふれ、
医療に対する自分の偏見を恥じて謝りたいと思うようになった、
これから健康診断は、もっと真摯な気持ちで受けよう、、

入院して丁度一ヶ月で退院したのだが、
胃の代わりに、小腸を切り、引き上げ、食道に繋げた体は、
まだ神経が胃を探し回っているかのように、
いままで体験したことのない症状に襲われていった、、。