8月の上旬に株式市場が大きく下落するも翌日には大きく値を戻すという展開があった。仕事柄こうした事象の説明に奔走する毎日であるが、今年より制度改正となったNISAで今年から投資を開始した人にとってはびっくりしたことだろう。しかしながら、本質的なところ(企業の業績見通しなど)は大きく変わるところはなく、参加している投資家が楽観していた分、リスクの所在に気づいたという感じだったことかもしれない。ただし為替水準を除いて考えておいた方が良いかもしれない。

 

さて、今週驚いたニュースが入ってきた。なんと東京大学の入試に臨める人数が「厳格化」されるというのだ。思わずネットニュースを見てびっくりしたのだが、内容としては以下のとおりだ。

 

「東京大学が2025年度(来年度)入試から第1次段階選抜を『厳格化』する。大学入学共通テストの成績による絞り込みを強化し、2次(個別)試験に進む人数を1,000人前後減らす。具体的には、文科1~3類の志願者の募集人数に対する倍率、いわゆる足切り倍率を約3.0倍→約2.5倍に、理科1類は約2.5倍→約2.3倍に、理科2類は約3.5倍→約3.0倍にそれぞれ受験者数を絞るというものだ。理科3類は既に約3.0倍に過年度絞り込みを実施しているので変更なしとのこと。」

 

これにより最大で文科、理科併せて全科類で最大8,600人程度2次試験に進めたいたものが、変更後は最大7,500人になるというもの。概ね1,000人強の「厳格化」となるものである。思わずこのニュースを見たところで東京大学のホームページを覗いてみるも、まだこのニュースは7月に東大が開いた記者会見によるものだが、ほぼ決定事項と考えておかなければいけないだろう。

 

昨年から今年にかけて国立大学の授業料値上げの件でいろいろな意見が出ているなかでのこのニュースだったので、経済的な理由も絡んでの話かと思ったがどうもそうではないらしい。少なくともどこの大学も年間の収入というのは、学生から納入される学費と国・自治体からの補助金、そして寄付金などで賄われているはず。唯一、変動する収入として入学試験の受験料があるはずだ。国立大学は私大に比べて受験する人数が限られているので、ここの部分は大きな影響ではないのだが、期せずして1,000名近くの受験者数が減るということは受験料一人17,000円とすれば1,700万円の減収になるわけだ。

 

お金の話はこのぐらいにして、ではなぜこのような「厳格化」に取り組むこととなったのか。

大学側の説明によると①答案をより丁寧に向き合いたい、②障害のある人など特別な配慮を要する受験生の増加に対応する、③共通テストによる基礎学力チェックを重視するなどが主な理由とのこと。

①の理由が一番大きいのかもしれない。国立大学の中で受験日から発表までの時間が一番長い、発表が最も遅いのが東京大学。それでも採点スケジュールは窮屈だという。採点する教員は数日間、終日缶詰め状態で答案と向き合うそうだ。教員側にとっても入試業務の負担は大きいという。ワークライフバランスの観点からも大学として取り組まなければいけない課題なのかもしれない。

次男、ガジュマルにこのニュースについて聞いてみると、

「そうそう、入試の時の採点官の人、結構大変らしいよ」とすでに大学側の発言となっていたが、「採点の質も科類によっては異なるらしいよ」とも言っていた。
東大の場合は、文科、理科共にそれぞれ共通の試験を受ける訳だが、特に理科の場合はかなりの人数が受験する理科1類、2類と同じ期間で採点をするわけで、人数が少ない3類と同じ基準で採点がされていない可能性があるという。これは同じ答案の内容であっても1類と3類では点数が変わってしまうかもしれない、ということを意味するそうだ。
「そんなことはないでしょう」と私も返してみたものの、何人の採点官で採点しているのかは分からないが記述式の答案を細かく採点する訳だから、かなりの負担が生じるのも分からなくはない。

 

②の理由、障碍者への合理的配慮を義務づける改正障がい者差別解消法の施行で、障害のある若者への入学機会の提供はすべての大学にとって重要な課題となったことは既にご承知のことと思う。東大の目指す「多様性と包摂性」の実現を基本理念に掲げている。障がい者等の受験に人手を要することを考慮すればある程度人数を絞らざるを得ないことも頷ける。

 

思い出してみると昨年度の入試においても文科1類、2類で足切りが実施されていなかったこと、遡ること23年度、21年度でも足切りが実施されない科類があった。一方で今回の決定で共通テストの位置づけを東大としても考慮していることになる。以前、東京大学の共通テストに対する認識度は1次試験が大きく圧縮されることを考慮するとあまり重きを置いていない様にも見受けられたが、近年そうした見方も変わりつつあるのかもしれない。

 

大学に入学し、研究者を目指すものが研究活動とは別に入学試験のサポートを余儀なくされる現行の入試制度においては、大きく制約を受けているのかもしれない。必ずしも入試の関係者となったから、自らの研究が疎かになるわけではないだろうが、近年ジョブ型の働き方が求められる日本の働き方について、大学教員、関係職員もある程度配慮が必要になっていることも事実だろう。

日本の大学受験制度に物申す的な人が多い中で、過去の録画していた林修先生が司会を務める番組で、成田悠輔氏が奇しくも言っていたが、「日本の大学受験制度は皆がいうほど窮屈なものでもない。教える側になってみると大学に入学してくる生徒をどのような基準で選抜するかは非常に難しい。その意味で学力の基準で一律選抜ができるのは大学側にとってもそうだが、受験する側にとってもある意味『公平』な仕組みではないか。どんな人格であろうが、金持ち/貧乏も関係なく、試験をクリアすることで大学に入学できる。ある意味、そのような仕組みであるからこそ自分のような者でも大学受験ができた。」との意見だった。

 

いずれにしても今年東京大学を受験する皆さんにとっては影響はないものの、来年度受験をする方、また東大合格を目指して浪人をする人において重要な情報となるので、心しておいた方が良いかもしれない。