本日、国立大学の前期試験が2日間終わったところ。受験生のみなさん、お疲れさまでした。保護者の皆さんも安堵されたことと思う。

わが家も兄弟(あに・おとうと)と2月25,26日となんとも言えない日々を過ごしてことを今でも覚えている。特にコロナ禍で東京大学を受験した次男の時は、ただでさえ入試で緊張するときに、新型コロナ罹患のリスク、公共交通機関や教室への入退室など人波に押されるような場面に遭遇することなどには肝を冷やしたものだ。

さて、本日は毎週NHKで放送している世界の有名大学のユニークな入学試験問題を紹介する「ニュー試」という番組について紹介したい。今週のお題はなんと日本の国立大学の試験日程に合わせるかのように、日本の大学入試にスポットを当てて今の日本の大学入試の姿を紹介する放送だった。古館伊知郎アナの軽快なMCと毎回登場する二人のゲストがその回の大学入試を受け、採点・評価をいただくという番組。毎回ユニークな問題や採点・評価基準を紹介しつつ、世界の有名大学がどのような人材、学生を求めているのか、を紹介。今回のゲストは、麻布→東大の松丸くんと3時のヒロインの福田さんの2人が、東京大学のある問題を解くという回であった。

 

ご存じのとおり日本の人口が徐々に減少傾向をたどる中、18歳人口も減少の一途をたどっている。一方、大学の門戸は毎年少しずつではあるが大学入学者数の総数が増えているという。ちょうど今年の入試のタイミングで18歳人口と大学入学者総数とがほぼ一致する年だそうだ。いわゆる大学全入時代になったと言われている。勿論、学部・学科を選ばずという条件付きではあるが。その中にあって大学側も早くほしい人材、学生を確保したい、とのことで大きく入学試験の方法が変わってきていることも皆さんも気づいていることだろう。

 

番組では、2000年度の入試と2022年度のそれとでは、一般入学試験(いわゆる一発入試)、学校推薦、総合型(AO)の割合がどう変わったのかを紹介している。2000年度は66.5%が入試による入学、残りのほとんどが学校推薦による入学。それが2022年度は、一般入試での合格者が49.7%、残りの約3割が学校推薦、約2割が総合型(AO)入試によるもの。これは入試本番を避けることができれば避けたい学生側のニーズと従来のペーパーテストでは測れない特徴・特色を有している学生を相応の時間と手間をかけて選抜することでユニークな学生を採ることができる訳である。おまけに年内(12月)までに入学者何割かを確定する大学側の思惑が見え隠れするところでもある。

 

以前、こちらの番組で紹介された大学は、米国のハーバード大学、英国のケンブリッジ大学、インド工科大学やちょっと変わったところでミネルバ大学などの選考の様子を紹介していた。ある意味、留学を考えている層に向けた番組なのかな?と思ってみていたが、今回か東京大学の入試を題材に日本の大学入試を紹介するものだった。30分と短い番組ではあるものの、実際に問題を解き、それなりの専門家が採点をし、最後に解答に対してフィードバックするという番組進行はそれなりに専門性もあり、着眼するポイント、評価の基準などが明確に解説され、いろいろな大学の入試にまつわる独自性をよく理解できる構成となっている。

 

今回の東京大学の入試の事例は、東大英語のうち英作文を取り上げていた。2019年の実際の問題で、「新たに祝日を設けるとしたら、あなたはどのような祝日を提案したいか」という英作文の問題を題材に、番組進行上英語での回答ではなく、ゲスト2名が日本語で回答するというもの。いくつかの制約はあるものの、日本語で方針を決め、文章を仕上げるわけだが、短時間でそれを仕上げなければならない。評価されるポイントをしっかり網羅しつつ論理展開に無駄がないようにすることを求められるのが東京大学の英作文だそうだ。

 

松丸君は実際に2014年東京大学の入試をクリアした実績があり、東大英作文にはそれなりの自信があったという。福田さんは関西大学商学部出身ということで、東京大学の入試経験はなかったということだが、二人とも見事な答案だった。それを東進ハイスクールの名物講師、武藤一也先生が採点・評価する。勿論英語で回答することが求められるのだが、東大では解答の論理展開が極めて重要であり、それをさらに英語で記述する表現力を問うというもので、ただただ英語ができるだけではダメというもの。

 

実は松丸君は東大の入試科目の中で苦手科目が英語だったそうだ。しかしながら、苦手な英語の中で唯一自信を持って臨んだ問題がこの英作文。なるほど彼ほどのきっちりとした論理展開と表現力があると、この手の問題がむしろ得意な感じも分からなくもない。まして理系の人間の論理展開はお手の物かもしれない。それから福田さんの答案も素晴らしい内容だった。祝日の名前が「心の日」というなんとも情緒的かつ女性的な祝日の案だ。日ごろ忙しくしている国民が心を休める日として制定する、という内容は短時間に考えるにしても非常に的を射ている答案だった。

 

結果として共に30点満点の30点を採る解答、おまけに松丸君は解答の中に客観的なデータを盛り込むなど武藤先生から+αの点を獲得していた。勿論、この文章を80ワード程度で英作文にしてはじめて採点されることになるので、英作文での点数はこうも高い点にならなかったかもしれないが、まずは論理展開の部分で満点は立派な答案だった。

 

これまでいろいろなNHKの番組を観てきたが、古館伊知郎氏をMCに起用する意外性とユニークな大学入試の問題、採点基準などの紹介が妙にマッチしている。今日、大学でもグローバル人材が求められる中で必ずしも筆記試験で選抜される日本の受験制度とは距離のある大学入試を紹介する番組であり、最初はどのような視聴者層を意識しているのかはっきり言って見えなかった。わが家も一度は大学留学を検討した家庭でもあるので、興味を持って見始めた訳だが、今の日本の受験制度に疑問を持つ人、あるいは多様性を考慮することの重要性を鑑みる教師の立場、学校経営者の人、あるいは純粋に留学を考えている学生などこうした番組をきっかけにいろいろな国の大学を掘り下げてみることで様々な人生の扉が開くかもしれない。視聴者層をクリエイトする新しいタイプの情報提供番組かもしれない。

 

最後に東京大学の推薦試験のグループディスカッションを経て大学に入学した学生の紹介があった。彼女は当初は地元の国立大学、名古屋大学の法学部を志望していた、とのことだったがこの学校推薦制度を知り、日本規模に焦点を当てこの試験を受けたという。様々な部活動や生徒会、文化部など高校時代にやれること興味があることを存分にこなしたうえでの受験だった様子で、従来の塾に通う東大生のイメージとはおよそ異なる受験生だった。勿論こうした属性を有した事例を学校推薦生として番組は取り上げてはいるのだが、やはり「多様性」を詠いつつ「可能性」を有した学生を募る大学側の事情も透けて見えるようだ。

 

最後に一番ユニークだなと感じたのは、お茶の水女子大学の図書館受験のような問題もあるそうだ。この図書館受験とは、試験時間6時間、図書館で缶詰となり、様々な文献を引用しつつ問題を解くそうだ。これは従前の「瞬発力」や「ひらめき」を求める入学試験とは異なり、「発想力」に加えて「持続力」、「耐久力」を兼ね備えた上で論理展開を図る能力を問われる試験のようだ。これまでの総合型のAOとはまた異なる人材の発掘に一役買いそうな試験だ。

 

これからの日本の大学入試もまだまだ変容してゆく素地はあるのだろうが、わが家の次男ガジュマルような学生もいることを最後に記しておきたい。
中等教育6年生(高校3年生)の春に志望大学の話をしたときに、私がこのように聞いてみた。

「東京大学を受験するつもりなら、学校推薦をもらったらどうなの?今年から男子校でも複数名、枠ができたみたいだよ」と聞くと、このような回答がガジュマルから返ってきた。

「ん?学校推薦は、大学に入学した後の専門(研究室)が決まっている人がその推薦をもらえばいい、と思っている」

「あなたは、専門を決めてないの?」

「まだ、決めてない」

「じゃあ、早く決めて推薦もらえば、受験勉強しなくて済むんじゃない?」と私。

「えっ、そもそも東京大学って、教養課程があって、その期間に自分の専門をどこにするのか決める時間がある。さらに一生に一度の大学受験、せっかくの機会だから本試験で合格したいじゃない。せっかくこれまで勉強してきたのだから…」とガジュマル。

「でもさぁ、受験勉強、面倒くさいって言ってたじゃない」

「受験勉強が面倒くさいんじゃなくて、いろいろなことを決めること(大学や学部を選ぶ、願書を取り寄せる、入試の検定料を振り込む、試験の日程を把握するなど)が面倒くさいって思ってるの」

と、まあ本当にものぐさ太郎の子でした。

 

いずれにしても前期試験の受験日程終了。お疲れさまでした!

失礼しました、理Ⅲの方は明日が面接試験でした。

明日も実力を発揮してください。

NHKの「ニュー試」の番組についてのお話でした。