その31 (トムの知らない生い立ち④)


 雨がざんざんと降りしきる☔️

ライ君は、ポツンと1人大きな木の下で

ぼんやりしていた。

悪い夢を見ただけや。

あれは夢やったんや。

帰ったら、ミユキちゃんは歓迎してくれる。

ライ君は少しだけ、そんな想いを心に浮かべた。


自分と、自分のお茶碗や毛布が入った箱を

置いて去って行ったミユキちゃん、


「なんで?」


お利口に、ただ ミユキちゃんの帰りを

待っていただけやのに。


「なんで?」


ライ君は、呆然という言葉を知らなかった。


体が冷たくなってきた。

ライ君は、自分の毛布の入った箱の中に入った。

ミユキちゃんが自分の為に買ってくれた

温かい毛布。


今は、雨のせいで温かくない。


美味しいごはんを入れてくれた自分のお茶碗が

目の前にあった。

楽しかった事が次々と思い出される。


「ミユキちゃん‥」


やがて、朝がやってきた。

雨が止み、辺りがキラキラと光っている。


いつの間にか眠っていたライ君が目を覚ますと

そこは、小さな森の様なところだった。


小さな自分を守る様に、大きな木が枝を

伸ばしている。


「ポターン♪」

大きな木の枝の先から、雫が落ちてきた。


ライ君は、歩き出した。

前に向かって進んで行く。


「あれは夢やったんや‥」

誰にともなく言う。


森を抜けると大きな道に出た。

人間の住む家が並んでいる。


どんどん歩く。

ミユキちゃんと暮らしていたアパートが見えた。


たぶん、ここ。

無意識に帰ってきてしまった。


ライ君は、とても嬉しくなった。


「ミユキちゃ〜ん!帰ってきたよ!」

思わず、声に出していた。


玄関のドアが開いた‥‥

そこから出てきたのは、ミユキちゃん‥

ではなく、ミユキちゃんの家に時々やってきた

お客さん。

あの時、ミユキちゃんと一緒に、帰ってきた

ミユキちゃんの恋人、がライ君の顔を見て

舌打ちをした。

そして、ライ君の身体を思い切り蹴り飛ばした。


ライ君は空を飛んだ

だけど、ライ君は猫だった。🐈‍⬛🐈


道の向こう側に、上手に着地した。

ミユキちゃんのアパートを見た。


玄関ドアは閉まっていた。

あの人はもう居なかった。

お客さん。


最初から、あのお客さんは自分のことを

嫌っていた。


ライ君は蹴られたところが少し痛かったけれど、

心の中の方がもっと痛くてズキズキしていた。


ミユキちゃんは悪くない。

あのお客さんのせい‥


ライ君は、毛繕いをして、

心を整えると再び、歩き出した‥‥