その28 (トムの知らない生い立ち①)


 オレはトム。

正しくは生きている現物のトムではない。

トムの魂というか、なんちゅーか、実体の

ないトムである。

実物のトムには知らない、覚えていない

生い立ちの記憶がある。

オレはそれを知っている。


 トムは、いまの住処とする公園から

1kmほど先の少し高台にある公園のはずれの

草むらで生まれた。

小春日和の暖かい冬の朝だった。


親はもちろん、野良ねこでトラ猫の母だった。

父はわからない。

5人兄弟の末っ子で身体はとても小さかった。

産まれてから3か月程は、兄弟仲良く暮らして

いたけれど、兄弟はみんな美人さんでとても

賢かったので、次から次へと人間に拾われ

家猫になっていった。

1人ぽっちになったトムは、母猫と仲良く

楽しく暮らしていたけれど、ある日突然、

母猫は死んでしまった。


公園の片隅でみ〜み〜ないていたトムは、

若い女の人に抱き上げられ

家に連れて帰ってもらった。


その人の名前は、ミユキちゃん。

21歳の働く独り暮らしの女の人だった。


ミユキちゃんは、小さなトムをとても大切にした。

その頃のトムの名前は、ライ君だった。


ミユキちゃんは、ライ君の為に、ベッドやトイレ

ケージ、お茶碗とかとか、色んなものを買って

くれた。フカフカの毛布は、2枚用意され、

トムのベッドと、ミユキちゃんのソファに

置かれ、ミユキちゃんが家にいる時は、いつも

そのソファで一緒にいた。

ミユキちゃんが、仕事に行く時は、ケージの中の

フカフカ毛布でミユキちゃんの帰りを待っていた。


「ライ君〜🎶 ただいま〜🎶

寂しかった〜? ご飯食べようね〜」

ミユキちゃんは、仕事から帰ると真っ先に

ライ君の食事の用意をしてくれた。

高級なカリカリに、とり肉や魚の缶詰を

まぜまぜしてくれた。


そうしてから、ミユキちゃんは、

「ライ君〜ワタシ、お風呂行ってくるでぇ〜」

と風呂場に行った。

ライ君は、ソファの上でミユキちゃんが

戻ってくるのを、おとなしく待っていた。


ミユキちゃんは、風呂から戻ってくると

「ライ君お待たせ〜」と言って、プッシューと

なる缶詰を自分のために開け、それはそれは

美味しそうにゴキュ!ゴキュッ!と喉を鳴らし

ソファにドカッと座り、ビニール袋に入った

自分のご飯を食べる。


その間、ライ君はミユキちゃんの膝に座り、

頭をなでなでしてもらったり、オモチャで

遊んでもらったりと、とてもとても暖かい

時間を過ごしていた。


夜は、ミユキちゃんのベッドで一緒に眠り

ライ君は、ミユキちゃんとこの仔として

すごくすごく幸せな幼少期を過ごしていた。