先日の松山でのお話です。
雨の日の朝
宿を清算して、出発しようとしていました。
観光客の方が
「これご存知ですか?」と
お菓子のようなものを見せてくださいました。
「一番固いパンだそうです。
お遍路さんたちが口に入れて
歩きながら舐めるのだそうですよ。」
見たこともない得体のしれない物体に
怖気づきながら
恐る恐る手を出しました。
彼は私の手に一つ載せ、二つ載せました。
「もう結構です。あなたのがなくなります。」
「いや、このくらいはすぐなくなります。
遠慮なくどうぞどうぞ。」

と、こんなに謎のお菓子を私の手に載せてくださいました。
車の中で
(変なものが入ってないかしら?)と
気味悪い気持ちで
一つ口に頬張りました。
最初、口の中で生姜の味とお砂糖の味がふわっと広がりました。
その後は、調味料の剥がれた石のような固いパンが口に残りました。
唾液で溶かそうとしてもなかなか溶けません。
端の方からカリカリ噛み始めました。
次第に小さくなってきたパンは、
口の中でカリコリカリコリ音を立てました。
最初の生姜の香りと甘い砂糖の味
そして甘すぎないほどよい固いパンの
歯ごたえが、とても気になり始めました。
「うまいなあ!」とトーサン。
「確かお寺とお寺の間のお菓子屋さんて言ってたなあ。」という
雲をつかむような彼のお話を頼りに
次に入った喫茶店で
どこに行ったらこれが手に入るか尋ねました。

しかしその地元の喫茶店内の方は
どなたもご存じありませんでした。
二人は、混乱してきました。
近所のパン屋さんも知りませんでした。
するとその怪しいお菓子は、二人にとって
貴重なお菓子に早変わりしました。
どうしてももっと食べたくなりました。
雨の車中、アイパットで時間をかけて検索し続けました。
善通寺の付近の和菓子屋さんにあることが判明。
ナビにセットして延々とそのお菓子を買うために
走りました。
100グラム150円。
そこでしか手に入りません。
ネット販売はしていません。
他に観光する場所がたくさんあったはずなのに
こんな旅は初めてです。
大病を患いながらの彼の長い道のりで
私の手のひらに載せてくださった
縁のあるお菓子の重みは
無関心だったお遍路さんたちの
悲しみと苦しみを教えてくれました。
四国の地を
尊い場所に変えてくれました。