「やまださん、私が帰るまえに、一緒にパジャマに着替えましょうか?
 
もうお外は、真っ暗ですから。」
 
「まあ、真っ暗ですか?」
 
「玄関のカギ穴が見えないくらい真っ暗です。」
 
「そうですか。玄関の電灯をつけてください。」
 
「大丈夫ですよ。懐中電気を持っていますから。」
 
「いや、点けてください。」
 
やまださんは、ごそごそ伝い歩きをして
 
どうやら玄関の方向へ行こうとされはじめた。
 
 
今晩は、仕方なく玄関の灯りをつけて帰ることにしたが
 
自分の歩行もおぼつかないのに
 
人の足元のことを心配してくださるということにジーンとした。
 
 
 
「また明日来ます。よろしくお願いします。」
 
丁寧におじぎをすると
 
「こちらこそ」と言いながら
 
またもや立ち上がろうとされる。
 
 
「危ないからここで失礼します。先日転んで左手を骨折された方がありましたから
 
本当にここで失礼しますね。」
 
「まあまあ、骨を折られたんですか。お気の毒に。」
 
彼女は、ちょっと腰を浮かし気味にして
 
私が帰るのを縁側で送ろうとされている。
 
もう待ったなしの状態で
 
私は、彼女が転倒しないように祈りながら
 
玄関をでた。
 
案の定、彼女は縁側のガラス戸をガラガラと開け
 
暗闇の中の私を探していた。
 
「ありがとうございます。
 
また明日来ます。おやすみなさい。」
 
「ありがとうございました。」
 
彼女はこれが最後かというように
 
丸まったお辞儀をされた。
 
 
この瞬間なぜだか
 
毎度、同じようにジーンとしてしまう。