
山の実家まで120キロ。
病院の玄関で身内の視線が私を射る。
長女の私は、父の棺と二人の運転手さんとの合計4人、
ワゴン車に乗って120キロの旅に出た。
夕方出発すると景色はすぐ暗くなり
私は、父の棺に片手を乗せて
真っ暗な後部座席で揺れていた。
「もう死にたい。」という父に
「寂しくなるから頑張って!」という私のわがままなことばに
父は頷いてくれ、四肢麻痺で2年間生き抜いてくれた。
「息をして!」という私の声に
最後にもう一度息を吸ってくれた。
120キロ
父との最後のドライブ
真っ暗な後部座席だったけれど
父と二人、なんだか安らかな気持ちに包まれていた。
実家が近づいたとき
私は勇気を奮って、運転手さんにお願いをした。
「この道を10キロ下ったところに新しく出来たトンネルがあります。
そのトンネルに父を連れて行ってもらえませんか?
完成するのを父がすごく楽しみにしていたトンネルなんです。」
運転手さんの声が車のエンジン音と共に
「ああ、いいですよ。親孝行してあげてください。」と聞こえてきた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
こんなこともあるんだ。おとうちゃん、何でも言ってみるもんだね。
トンネルの中は、天国のように眩しかった。
「おとうちゃん、わかる?トンネルを抜けたよ。よかったね。やっと通れたね。」
父の棺を撫でながら声をかけると、父の笑顔が浮かんできた。
最後にひとつ親孝行が出来た。
とても悲しい親孝行。
父と二人っきりのすごい思い出。
おとうちゃん、ありがとう!