
私の左腕に、彼女の体温がほんのり伝わってくる。
100歳をとおに過ぎ
丈夫な心臓のおかげで今に至っている彼女。
食べ物を持つ手も弱々しく
目を離すと器を傾け
エプロンの模様をむしって口に入れようとしている。
あわてて違うエプロンに取替え
次は何が起きるかハラハラしながら
人さじずつ彼女の口にスープを流し込む。
「兄貴は、あんたのとこにおるんか?」と彼女。
「そうです。うちにおられますよ。」と私。
100歳を過ぎた彼女のおにいさんがこの世にいるわけはない。
「息子の飯を炊かなあかん。」
「大丈夫、今炊いています。」
「はあ、そうか、ありがと。」
彼女に良く似たハンサムな息子さんも、もういない。
震える指先を動かしながら
もう、この世にいない家族の心配をする彼女。
彼女の力つきる日が遠くないと思うと悲しくなって私は、天井を見上げた。
兄弟に
子に
知り合いに先立たれても、生きるしかない。
下肢が硬縮しても、生きるしかない。
長生きすることって孤独と戦うこと。