旧家の多い大阪には、資産を出来るだけ減らさずに次世代に受け継いでいく、と云う事に力点を置いた遺産相続の特徴が有るようです。
そんな観点から大阪の伝統文化を見渡してみると、大阪は船場の絢爛たる旧家、蒔岡家の四姉妹を描いた谷崎潤一郎『細雪』の、1983年に公開された映画が、女優陣のクローズアップ映像と共に、遺産相続の話で始まるのが、興味深く目に留まります。
時は昭和13年(1938年)、春。場所は京都、嵯峨野の和室。外は生憎の雨。
次女幸子(佐久間良子): お金?・・・あー、あの事。
四女妙子(古手川祐子): 中あんちゃん、言うてくれはらへなんだん?
幸子: あかへんって。
妙子: なんで?
幸子: あれはあんたの結婚の支度金やさかい・・・
妙子: そやかて・・・
幸子: 他の事では渡せへんって、姉ちゃん。
妙子: あたしのお金やないの?・・・なあ、きあんちゃんからも何とか言うてえな。あんたの分も有るんやで。
三女雪子(吉永小百合): そのお金って、幾ら位有るか知ってんの?
妙子: うち、知らん。きあんちゃんは?
雪子: 知らん。
幸子: あたしも知らんわ!亡くなったお父さんから本家が預かってる雪子ちゃんとこいさんのお金がどれ位か、今まで考えた事も無かったなあ。
先祖代々の遺産を受け継ぎ守り抜いていく事に必死になっている世知辛さの一方で、その金額が幾らかも知らないほど浮世離れしている、と云うアンバランス、そして、その中でもがきながら四姉妹それぞれが次第に各々の道を見付けていく、と云うこの映画の全体を端的に象徴するような冒頭の場面です。
『細雪』は、大阪の遺産相続を美しく描いた映画だ、とも言えるかも知れません。
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