「量子コンピュータが未来を変える」という言葉は、少し前まではSFの話のように聞こえましたが、現在は、「実験室の段階」から「実用化の入り口」へとフェーズが変わっています。
なぜ「すぐそこまで来ている」と言えるのか、その理由を3つのポイントで分かりやすく解説します。そもそも、量子コンピュータは、「計算の桁」が物理的に違うということを理解します。
スパコン含む従来のコンピュータは、情報を「0か1」のビットで処理します。一方、量子コンピュータは「0であり1でもある」という量子重ね合わせを利用した「量子ビット」を使います。
これにより、従来のコンピュータが1つずつ順番に計算するのに対し、量子コンピュータは膨大な選択肢を「同時に」計算できます。
例えば、現在の最強スパコンで1万年かかる計算を、量子コンピュータなら数分で終わらせる可能性があると言われています。やがて、私たちの生活に直結する、「3つの革命」が始まります。
「すぐそこ」にある変化は、主に以下の分野で期待されています。ウイルスに効く新薬の分子構造をシミュレーションするのは、今のスパコンでも至難の業です。量子コンピュータなら、分子の動きを正確にシミュレートできるため、開発期間が劇的に短縮されます。
また、「数千台のトラックをどのルートで走らせれば一番効率的か?」という、組み合わせが爆発的に多い問題、「組み合わせ最適化問題」を瞬時に解き、渋滞や無駄をゼロに近づけます。加えて、市場の複雑な変動予測や、リスク管理の精度が飛躍的に向上します。
では、なぜ「すぐそこ」なのか? GoogleやIBMといった巨大企業だけでなく、日本の理化学研究所や富士通などでも実機が稼働し始めています。すでに一部の企業や研究者も、クラウド経由で本物の量子コンピュータを動かし始めています。
「すべてを量子でやる」のではなく、「難しい部分だけ量子に任せ、あとは従来のPCでやる」という現実的な運用が始まっています。
ただ、量子コンピュータは万能ではなく、実は「メールを書く」といった作業には向いていません。あくまで「特定の超難解な計算」に特化した特効薬のような存在です。ですから、「明日からスマホが量子スマホになる」わけではありません。
しかしながら、あなたが飲む薬や、乗っている電車の運行計画、使っているバッテリーの性能が、知らないうちに量子コンピュータによって「最適化」されている未来は、もう数年先まで迫っています。
次は、量子コンピュータが今のセキュリティを壊してしまうという、「2030年問題」に対峙することになります。「暗号が破られる」という話は、量子コンピュータの進化において最もインパクトがあり、かつ対策が急がれている分野です。
では、なぜ今の暗号が危ないのか? 現在、インターネットの通信やクレジットカードの決済で使われているRSA暗号などは、「巨大な数の素因数分解には、スパコンでも何千年もかかる」という前提で成り立っています。
ところが、今のスパコンは、1つずつしらみつぶしに計算するため、時間がかかりすぎて実質的に解けない。量子コンピュータの「ショアのアルゴリズム」という手法を使うと、この計算を一瞬で解いてしまう可能性がある。
つまり、量子コンピュータが完成すると、現在私たちが「安全だ」と信じているデジタル世界の鍵が、すべて通用しなくなるかもしれないのです。今後、「2030年問題」と言う言葉を耳にするでしょう。
専門家の間では、早ければ2030年頃には、既存の暗号を解読できるレベルの量子コンピュータが登場するのではないかと予測されています。これが「2030年問題」です。
「まだ先の話じゃないか」と思うかもしれませんが、実は今、深刻な脅威がすでに始まっています。「今盗んで、後で解読する」悪意のある攻撃者が、今は解読できない暗号化されたデータをあらかじめ盗んで保管しておき、数年後に量子コンピュータによってあばかれます。
結果、瞬間に中身を暴くという手法ですので、国家機密や個人の一生モノのゲノム情報などのデータが狙われることになります。
では今、世界はどう動いているのでしょう。もちろん、世界中の技術者も黙って見ているわけではありません。量子コンピュータでも解けない、より複雑な数学に基づいた新しい暗号の開発が進んでおり、標準化が始まっています。
また、物理法則そのものを利用して、「盗み見されたらすぐにバレる」という絶対に破られない通信網の構築も進んでいます。
以上、「未来を変える日はすぐそこ」というのは、私たちの生活が便利になるというポジティブな側面だけでなく、「デジタル世界の安全保障を根底から作り直さなければならない締め切りが迫っている」という緊迫感も含まれているのです。