PCの普及により手書きの機会が減少している現状は、私たちの脳の働きや学習能力、さらには精神面にまで多岐にわたる影響を及ぼしています。最新の認知科学や脳科学の研究に基づき、その影響を見てみましょう。
1. 脳への影響
手書きとタイピングでは、脳の使われ方に決定的な違いがあることが判明しています。脳内ネットワークの広範な活性化が見られます。
2024年、ノルウェー科学技術大学などの研究によると、ペンを使って書く動作は、タイピングに比べて脳の広範囲なネットワークを活性化させます。
特に、視覚・聴覚・運動を司る領域が互いに連携し、情報の統合を助けます。手書きをしている最中は、記憶や学習に深く関わる「シータ波」や、創造的思考を支える「ガンマ波」が活発に出現することが報告されています。
2. 学習や記憶への影響
PCでのメモは「情報のコピー」になりがちですが、手書きは「情報の再構成」を促します。タイピングは速度が速いため、話の内容をそのまま打ち込みがちです。
これに対して手書きは速度が遅いため、「内容を要約し、自分の言葉で置き換える」という高度な認知処理が必要になります。これが深い理解と長期記憶につながります。
「書けない」ストレスと認知機能 漢字などを「いざ書こうとすると思い出せない」という現象は、脳の検索機能が弱まっているサインです。手書きの減少は、こうした文字想起の能力を低下させるリスクがあります。
3. 精神や感情面への影響
手書きには、デジタル機器にはない心理的なメリットも注目されています。悩みや思考を紙に「書き殴る」行為は、脳のメモリ消費を抑え、精神的な余裕を作る効果があります
つまり、紙の質感やペンの滑りといった「触覚的フィードバック」は、情報の空間的な位置関係と結びつきやすく、後で思い出す際の強力な手がかりになります。
では、どのように使い分けるべきか。PCやデジタルツールの利便性は否定できませんが、「深く考えたいとき」、「新しいことを覚えたいとき」、「アイデアを練りたいとき」には、あえて手書きを選択することが脳のパフォーマンスを最大限に引き出す鍵となります。
最後になりますが、「全ての記録をデジタルにする」のではなく、「記録はPC、思考はノート」といったハイブリッドな使い分けが、現代において最も賢い情報の扱い方と言えるでしょう。