​思い出したこと
Part4

わたしが幼稚園のころ

母と姉が2人で
お出かけした日があった。


『すぐに帰ってくるから
お留守番しててね』


父と2人でお留守番だ。

初めてのことだった。

父は無口で子供が苦手。
一緒に遊んだりする人ではなかった。

いつも黙って新聞を
読んでいた。

私は、考えた。

『父も2人だけのこの状況を
気まずくて困るだろう』

『よし、遊んであげよう』

父の大きなジャンパーに
入り込んでジッパーを自分であげる。

分かりやすい
かくれんぼだ。

『どこにいるか分かる?』

ジャンパーの中からそう聞くと
父はジッパーを開けて見つけてくれた。

1回、2回

3回目
『どーこだ』
『どこだか分かる?』

返事はない。

数分間ジャンパーの中にいた。

無音だ。
気配もない。

膝を抱えて座ったまま

ジャンパーの中は熱くなり

仕方なくジャンパーから出た。

そして、父を見た。

新聞を読むその横顔は、
まるで私の存在を消していた。

少し父から離れた場所で
1人で遊んだ。

『せっかく遊んであげようと
思ったのにな…』


玄関から姉の元気な大きな声

『ただいま〜』

『おかえり』

小さな声で応える。

『お人形さんごっこしてたの?』

『うん』

父のジャンパーの匂いが
鼻についたままになっていた。