・T
再就職が決まりホッとした。そろそろ結婚しないとなぁ。そのあと、こどもかなぁ。と考えだす。そうしたら子供のために働く。家族を養うために働く。その責任が自分のためにもなる。人間とは、何かしら縛りが必要な性質なのかもしれない。縛りがあるから自由を求める精神が生まれる。自由を求めるから、縛りがある。縛りを受け入れてもいい頃なのかもしれない。
2つの指輪。
数字とイタリア語の刻印。
数字は何を意味しているのだろうか。机に転がる指輪の刻印を見て、途方に暮れる。行方が分からなくなった、このモニターの持ち主。指輪と何か関係性があるのか。考えても明確なその人のイメージもない。どんな人かもわからない。あきらめて机の引き出しにしまう。来週から始まる仕事の方に頭を切り替え、今日は寝る事にしよう。
土曜日夜7時。
ドトールにてモニターの持ち主の兄と待ち合わせ。兄は律儀に頭を下げ、挨拶をした。
早速、本題の指輪の話しになった。
「早速ですが、指輪を見せてもらってもいいですか?」
彼の手のひらに、2つの指輪を渡す。片方の手に通常の指輪。片方の手にひしゃげた指輪。人差し指と親指で吟味するように、覗き込むように見ている。
「付属品のネジとボルトが入った袋の中に入っていたんです。この指輪に関し、深く追及するつもりはなかったんですが少し気になったもので。指輪の内側に刻印されている文字が、イタリア語だという事はわかりました。」
彼は目を梁のように細めて指輪の内側を見る。
「イタリア語ですね。私もイタリアに入ったことがありますから少しはわかります。」
一つ息を吐き、続けた。
「弟もイタリアに行ってたんです。僕なんかの短期間の旅行ではなく、2年ほどですか。インターンで仕事もしてきている。弟は、イタリアから帰ってきたときは、とてもやつれていましてね。イタリアで何があったかは聞いてませんが、心を病む何かの出来事があったのかもしれません。ここ最近、結婚しましてね。とても幸せそうだった矢先の失踪だったので、家族も血眼で探しているんですがね。」
2つの指輪に刻まれた文字を何度も見ながら、何か考えているようだ。
「そのイタリア語の意味は、太陽と明かり。弟さんがイタリアに行ったときに、誰かにプレゼントした指輪ですかね?」
「その可能性が高いと思います。この数字、見覚えがあります。43.78と11.25。これはフィレンツェの場所じゃなかったかな。僕もイタリアに行ったとき、フィレンツェに行きましてね。地図を見て、日本と比べてたんです。なんか頭にインプットされていて。たぶんそうだと思います。」
「弟さんもフィレンツェに行かれてたんですか?」
「そう。弟もフィレンツェでした。アトリエがフィレンツェのようでした。
「何か、関連しているのかもしれませんね。」
どうしたものか、頭を抱えながらコーヒーをすすった。
「一度フィレンツェに行ってみますか。」
「そうですね。それがいいですよ。ひょっとしたら、弟さんいるかもしれませんし。」
「Tさん、旅行がてらどうですか?ご一緒に」
はい?驚きのような疑問符で返す。
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