【遠藤周作も愛した「とら寿し」】 | 【かほり放送局】

長崎市の名店が閉店した。常連客ら惜しむ声
 作家、遠藤周作さん(1923~96年)らが通った長崎市万屋町のすし店「とら寿し」が、29日で閉店する。店主の大竹豊彦さん(70)は「数年前から、仕込みの途中で、緊張感と集中力がうせると感じるようになった。このままでは客に礼儀を失することになる」と話す。
常連客から惜しむ声が上がっている。
遠藤さんとの付き合いは、代表作「沈黙」(66年)の取材旅行で訪れた際に立ち寄った65年から。店は小説「砂の城」(76年)に登場し、雑誌でも紹介されたことから全国にその名を知られ、遠藤文学のファンも客として訪れていた。また、大竹さんは40~50歳代のとき、遠藤さん主宰の劇団「樹座(きざ)」の役者として、「ウエスト・サイド・ストーリー」などの舞台に計4回出演するなど、親交を深めた。
 店は、父・正巳さんが1953年に開いた。病気で正巳さんが倒れたため、東京の大学を中退して、59年から店を継いだ。
 カウンター9席のみで、妻の東洋子さん(66)と2人で切り盛りしてきた。東洋子さんが体調を崩したこともあって、昨年11月に家族で協議して閉店を決めたという。
 大竹さんは「すしを通して自己の内面性を表現し、それに相手が共鳴したときに『うまかった』となる。自分の中で、それができなくなった。ものすごくさみしいが、人間は必ずこういう日が来る」と話している。