讃岐うどんを食べた後に高松港まで足をのばした。高松港からは、芸術祭の舞台である離島、女木島・男木島、直島、豊島、小豆島、大島へのフェリーや高速旅客船が出航する。いわば芸術祭への玄関口なのであるが、そこには作品がいくつか展示されていることを忘れてはならない。まず、椿昇の「PROM: Prosthetic Restoration of Our Memory」。直訳すれば「記憶の補綴修復」と、歯医者で入れ歯を入れるように記憶を修復するというのだろうか。今は使われていない港の管理事務所の建物のファサードの一部には、金歯のような鏡面が被せてあり、対面する景色が建物に映えて、そこだけあたかも建物が消えてしまっているようにも見える。昼間に見れば印象が変わるのだろうが、夜間は周囲は全くの闇で、時折通り過ぎる車の放つ光がもうひとつの闇の中でもまた通り過ぎていく。建物の内部からは人工的な光が洩れ、刻々と色を変える。時折二階部分からも紫色の光が放たれる。それは忘れられた死者の記憶の甦りのようでもあり、歯科施術での痛い奥歯の記憶の再生のようでもあった。