最初期の潜水服 (モナコ海洋博物館で撮影)

潜水服のお蔭で海綿の収獲量は増えたが、漁師たちの体はその見返りに未知の病に侵されることになった。それは、職業病ともいえる「潜水病」だった。

潜水時に、コンプレッサーで海上より送られる高圧の空気を呼吸すると、大量の窒素が血液や組織の中に溶け込む。呼吸とともに溶け込んだ窒素を徐々に体外に排出した後に海から上がれば問題はないのだが、このような調整をしないで海中から急浮上すると、体内の圧力が一気に低下して、血液や組織の中の窒素が気泡化してしまう。こうして起こるのが、減圧症、いわゆる潜水病である。

気泡化した窒素は膨張して、組織を傷つけたり、血管の閉塞、狭心症の原因になる。症状としては、軽度なものでは、腕や脚の関節や筋肉の痛みとして現われる。脊髄や脳に及ぶ重度なものになると、しびれや麻痺、頭痛や錯乱が起こり、重篤な場合は循環器障害により死に至る。

不幸なことに、海綿獲りの漁師たちは、潜水病についての知識や予防措置を知らなかったため、20世紀初頭までに二万人以上が麻痺により働けなくなり、一万人以上が死亡したという。この数は実に海面獲りの漁師の総数の過半に至ったという。