
乙一・著の「ジョジョの奇妙な冒険 第四部」外伝「The Book」。早速読み終えました。脅威的な記憶力をもとに父に復讐を果たす蓮見琢馬と、父の顔を知らずに育ち命の恩人を慕うジョジョ、東方仗助。血の繋がりのある実父はどこかにいるも、生まれながらに父との関係を喪失したもの同士の対決がクライマックス・シーンでした。
思えば連載開始20年に至る「ジョジョ」サーガでは、ジョースター家の家系を軸として、血縁を巡る運命のドラマが、百年以上何代にもわたって展開されてきました。その累々と続く血脈は、作中で総じて印象の希薄な恋愛劇に代わり、この物語を深く支配しています。
このように書くと、「ジョジョ」を読んだことのない人には、矢鱈と兄弟姉妹、登場人物の多い大家族構成のドラマを想像させるかもしれません。ところがジョジョの名を持った七人の主人公は、実質的には全て一人っ子です(厳密に言えば、第四部の仗助は承太郎の母ホリィと姉弟関係ですが、お互い会ったこともなく親子以上に年齢差があります。第五部のジョルノにも、第六部の終盤で三人の異母兄弟がいたことが分かりますが、お互い会ったことはありません。第七部のジョニィには兄がいましたが、後に事故で亡くなっています)。主人公のそれぞれが育ち人格を形成したのは、いずれも父母の愛の溢れる(凡庸ながらも)幸福な環境ではありません。大半が両親のうちいずれかが不在の不完全な家庭で育っているのです。そして注目すべきは、第一部ジョナサン、第六部ジョリーン以外の主人公は、本来ヒーローの資質を受け継ぐ筈の「父たる存在」を喪っているのです。第二部のジョセフとその母・リサリサ、第三部の承太郎と母・ホリィ、第四部の仗助と母・朋子というふうに、主人公にとっての身近な親とは専ら母親にほかならないのです。つまり「ジョジョ」サーガにおけるヒーローの遺伝子は「父系制」で承継されるのではなく、意外にも「母系制」の中で受け継がれているのです。
「ジョジョ」では、連載されているのが少年誌であるせいか、恋愛や男女の機微のようなものは、あまりうまく描かれていないように思えます。にも関わらず、作品が単なる男性優位の格闘マンガに終わっておらず、女子のファンが少なくないのは、この物語が陰で「母系制=女系制」により支配されていることが影響しているからではないでしょうか? 乙一の描いた「The Book」の小説世界は、従来の少年誌の枠組みを超えた領域に踏み込みつつも、荒木の意を汲んでか「母系制」の物語がそっくり再現されているように思えました。この点において見事な出来ばえになっていると思います。