別府温泉の「地獄巡り」で目にした光景は、長年の期待に違わず刺戟的であった。特にあまり自然界には見られないような紅色をした「血の池地獄」、それとは対照的にコバルトブルーの「海地獄」(従姉妹たちはここで茹で卵を食べたのだろう)、定期的に物凄い勢いで噴きあがる間歇泉「龍巻地獄」、既に絵葉書で御馴染みであったが、これらの地獄には正直驚かされた。個人的に別府三大地獄の名前を進呈してもよいと思う。

他の地獄はどうか? 灰色の熱泥がぶくぶく沸騰して坊主の頭のように見える「坊主地獄」も迫力十分(因みに「坊主」は差別語だけど「僧侶地獄」に言い換えると変♪)、青白いお湯の「白池地獄」もよくある温泉の光景だけど、まあ許せる。しかし「海地獄」に対抗した「山地獄」、はっきり言ってそこは動物園であった。

そして問題の「ワニ地獄」である。「オニ地獄」なら判るが、湯煙漂う地獄にいるのはオニではなく、膨大な数のワニ。単位面積当りのワニ数、ワニ密度では世界有数に違いない。人間世界で言えば香港のような場所なのだった。このワニたちは例のごとくぴくりとも動かない。餌付けのショーの時間以外は、岩のように固まってしまっている。来訪者は、その岩のようなワニたちを眺めながら地獄を一回りする。考えようによってはシュールな体験を楽しめるのである。

「山地獄」にしても「ワニ地獄」にしても、潤沢な温泉の湯を熱源に利用して熱帯地方の動物を飼っているのだと思うが、比較すると山地獄はどうも中途半端な感じがした。山地獄にいるカバやゾウやフラミンゴが、はっきりいって地獄に似合わないのである。似合わなさすぎる。このような場合は、動物を特撮モノの怪人に仕立てるとよく判る。カバ男、ゾウ男、フラミンゴ女.....ちっとも強そうでない。どちらかというと間抜けな印象すら感じるではないか。その点、ワニ男は強そうである。何かやってくれそうな感じがする。その上、ワサワサとおびただしくいる。そういうワニにかける徹底ぶりには、地獄にもワニがいるかもしれないね→いや、ワニはいるに違いない→地獄にワニ地獄ってあったよね。と見る者をその気にさせる説得力が備わっているのである。願わくば少しワニが動いてくれると、なおいいのだが。

前に取り上げたが、大竹伸朗の作品にワニを描いたものがいくつもある。中には別府のワニ地獄の絵もあった。


「ワニ景」かな。

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