周辺は庶民的な雰囲気に変わっていく。道路が少々渋滞気味で鬱陶しい。ここは、南シナ海に突き出た半島の中央を横切る新馬路であるが、進行方向正面には、既にこの目抜き通りの終わりが見えてきた。つまりフェリー・ターミナルのあった海岸線とは逆の側、中国珠海側の海岸線に、まもなくバスはたどり着くのだ。

お昼時が過ぎてお腹が減ってきたことだし、すぐタクシーが見つかるのであれば、このへんでバスを降りて新馬路を引き返すのがよいのかもしれない。小銭があって、荷物が無ければ、いとも簡単なことなのだが、少し躊躇してしまう Pet であった。まもなくバスはT字路に突き当たり、大きく左方向に、つまり半島の先端に向かって曲がった。

この海岸通りは新馬路のような賑やかさは既になく、殺風景な古い建物が建ち並ぶ「場末」という言葉がよく似合う街並みだ。バスはちょくちょく停まり、その度に降りる人はいるのだが、乗ってくる人がいないため、車内の客は減る一方だ。漁村のようなところで、ついには Pet 以外の客が全員降りてしまった。なおもバスに乗っている Pet に対して、運転手は振り向いて何か言いたげである。バスはすぐ近くのバス・ターミナルまで走り停車した。大小のバスが並んでおり、乗ってきたこのバスがいかにオンボロであったかが判った。運ちゃんは、中国語で何かまくしたて「降りてくれ」というジェスチャーをした。Pet は、ゲット・オフすべきバス・ステーションをミスったので、もしこのバスがフェリー・ターミナルの方へリターン・バックするなら、テイク・ミーして欲しいと英語で言ったが、苦労した甲斐なく運ちゃんには通じなかった。期待していたようにバスが巡回しないことはすぐに判った。何故なら降りた Pet とバスを残して、運ちゃんがどこかへ行ってしまったからだ。よって乗車賃についても不問ということになり、ここに無事無賃乗車が成功したわけである。

バス・ターミナルでは、案の定、タクシーは見つかった。ずいぶん遠くまで連れて来られたが、無賃澳門市内バスツアーを楽しめたのだから、まあいいではないか。人生何事もポジティブ・シンキングである。タクシーは見慣れた新馬路を経由してホテルの方に戻った。遠くにクリーム・イエローの葡京酒店の建物が見えた。