本日は柴田恭兵「RUNNING SHOT」(1986年リリース) です。

まずは柴田恭兵さんについて。柴田さんは1951年に静岡県で生まれます。日本大学経済学部卒業後、サラリーマンとして一般企業に勤務していましたが、当時の同級生がマネージャーとして在籍していた劇団「東京キッドブラザース」の観劇の誘いを受けて観に行ったところ、衝撃を受けたそうで、当時お芝居へは興味が無かったそうですが、東京キッドブラザースの演出家から「役者にならないか?お金じゃない、本当に面白いんだ」という言葉を受けて1975年に入団します。入団後は東京キッドブラザースの看板俳優となるほどの人気を集め、多くの女性ファンが付くことになります。1977年に当時の人気ドラマ「大都会 PARTⅡ」(日本テレビ系) のゲスト出演でテレビドラマに初出演すると、翌年には加山雄三さん主演の「大追跡」(日本テレビ系) でレギュラー出演を果たします。さらに1979年には当時人気を博していた「赤いシリーズ」の新作「赤い嵐」(TBS系) でドラマ初主演を飾るなど、人気が急上昇していきます。1984年にはジョニー大倉さんと共に主演を務めた映画「チ・ン・ピ・ラ」が話題となり、「チンピラのプロってなぁ、無理なのかなぁ」というセリフは流行語にもなりました。
そして、1986年10月。日本テレビ系ドラマ「あぶない刑事」に舘ひろしさんと共に主演すると、ドラマの大ヒットと共に柴田さん自身が大きな人気を集め、スターダムにのし上がることとなります。1990年代以降はドラマ・映画共に主演作が相次いで制作され、中でも「はみだし刑事情熱系」(テレビ朝日系) の高見兵悟役はハマり役となり、8年に渡るシリーズ作品となりました。2000年代以降では円熟味を増した、渋い役柄に定評があり、「ハゲタカ」(NHK総合) や「空飛ぶ広報室」(TBS系) などに助演し、高い評価を受けています。
そんな柴田さんといえば、前述したように「あぶない刑事」の大下勇次役 (ユージ) が1番の当たり役とも言えます。そんな「あぶない刑事」で長きにわたり挿入歌として使われたのがこの「RUNNING SHOT」でした。柴田さんの歌手活動における代表作とも言える曲です。

柴田さん演じるユージは神奈川県警港署捜査課に所属する刑事で、舘さん演じる鷹山敏樹 (タカ) とコンビを組んで、神奈川・横浜市の悪を大胆奇抜な方法で、そして直ぐに銃を撃つなど、まさに「あぶない」方法で悪を捕まえます。それまでの刑事ドラマにあった銃撃戦やアクションシーンだけではなく、軽妙でコメディタッチ、そしてファッショナブルな作風で、当時の刑事ドラマとは一線を画していたドラマでしたが、この作風には柴田さんの軽い演技、アドリブを多く交えたセリフなどが大きく、コンビを組んだ舘さんのその後の俳優活動にも大きな影響を与えています。
ユージは元々盗犯捜査に長けていて、ピッキングを得意としており、窃盗が関わったものでは鍵の開け方から犯人を特定出来るほど。タカと共に射撃も得意で、銃弾の使用量は神奈川県警で2番目に多いと言われています。(1番はタカ) また、愛車・レパードを巧みに操るほどのドライビング・テクニックに優れており、専ら運転を担当しています。後の1990年代以降の作品ではパソコンなどの電子機器にも長けている様子が伺えます。「一気呵成」をモットーとしていますが、それ故に辛抱強さが無いという弱点もあります。
そんなユージは、俊足自慢で犯人が車で逃走しても走って追いかけることが出来る程の速さを見せています。こういったシーンで大抵流れるのがこの「RUNNING SHOT」で、「あぶない刑事」にとっては最早お馴染みとも言えます。
この曲は歌詞が少なく、もっと言えばサビの歌唱が殆どコーラスの女性によるもので、柴田さん自身が純粋に歌う部分は「時のゆくまま」「時はめぐる」くらいというメインの歌唱者が歌う部分がサビ以外が殆どという珍しい曲となっています。歌詞は門間裕さんと吉松隆さんによる共作で、キザな柴田さんらしい歌詞となっています。
「優しいなんてウソだぜ いつも」
「ふざけた事は いっさいごめんだ」
優しいなんて言われるのがイヤだという当時の「男」らしさ全開の歌詞で、「カッコいい」と言われたい男の願望をそのまま歌詞に落とし込んだような作品になっています。それ故、ふざけたことはやらないという信念も持ち合わせています。
「いきがっているのも 面倒な話さ」
「気まぐれなふりをして おどけているだけ」
ですが、ずっと粋がっているのも辛いもので、自分の偽りの姿として、気まぐれで、ふざけた姿を「仮の普段の姿」として見せているのさ、というのです。
サビは「GET UP!」「GET ON!」「TAKE UP!」「TAKE ON!」といった英単語がズラッと。先程も言ったように、女性コーラスがメインで歌唱しており、柴田さんは「Oh.yeah」などの合いの手を入れているような状態。とはいえそれでセクシーな存在感を出せる柴田さんの声がエロいのです。下手に歌わずに存在感を出せる曲はなかなかありません。
作曲・編曲は吉松さん。4つ打ちのディスコ、ファンクといったブラック・ミュージックを基調とした作品となっています。イントロ・Aメロ・サビでのシンセサイザーのリフは軽快さを、スラップ奏法によるベースはファッショナブルな印象を与えます。それでいて踊れるような曲調に仕上がっているのは、ドラムの4つ打ちとカッティング・ギターのクリーンな音色があるからでしょうか。現在でいうところのシティ・ポップのようなオシャレな雰囲気を醸し出しています。
軽快で軽妙でセクシーな疾走感溢れる曲。柴田さんでしか出せない歌だと思います。