成田発、恋の夜間飛行。中森明菜「北ウイング」 | よねともが気ままに思うブログ

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本日は中森明菜「北ウイング」(1984年リリース) です。




前年の1983年は、明菜さんがデビューからまだ僅か2年であるにも関わらず、既に松田聖子さんと並ぶアイドルシンガーとして男女問わず人気を集めるようになってきました。「禁区」では聖子さんに曲提供していたYellow Magic Orchestra (YMO) の細野晴臣さんによる作曲・共同アレンジで、YMO色の濃い「テクノ歌謡」で一躍話題となりました。

基本的に聖子さんと明菜さんは、それぞれの歌手としての色が異なる為、1980年代は前述の細野さんと「セカンド・ラブ」などを手掛けたシンガー・ソングライターで作曲家の来生たかおさん以外は、聖子さんと明菜さんの双方共に作詞・作曲を手掛けることはありませんでした。聖子さんの世界を確立させた作詞家の松本隆さんも、明菜さんの曲を書くようになったのは1990年代以降でした。聖子さんの作曲作品はどちらかといえばニュー・ミュージック路線を代表するシンガー・ソングライターが手掛け、明るくポップな作品が目立っていました。(松任谷由実さん、大瀧詠一さん、財津和夫さんなど) 一方の明菜さんは本人の嗜好が前面に出たものも多く、作家を指名することも少なくありませんでした。その為、歌謡界を代表する作家やロックバンドからのミュージシャンなどが手掛けていました。(林哲司さん、玉置浩二さん、高中正義さんなど) 井上陽水さんも明菜さんに曲を書いていたことはあまりにも有名です。

歌謡曲でも影があるような作品になっており、ロックに近いテイストも多く、明菜さんのイメージを確立させていきます。1984年からは徐々に明菜さんのミュージシャンイメージが確立されていく年となります。その第一弾シングルとしてリリースされたのが、この「北ウイング」でした。

タイトルの「北ウイング」は「ミッドナイトフライト」「夜間飛行」など多くのタイトル候補があった中、明菜さんの提案でこのタイトルとなりました。明菜さん曰く、由実さんの「中央フリーウェイ」の影響でこのタイトルになったといいます。

この「北ウイング」とは、成田国際空港 (成田空港) の第1旅客ターミナルの北ウイングを指します。




成田空港第1旅客ターミナル。下はGoogle Earthから。赤◯が「北ウイング」。

この当時、成田空港の開港から5年が過ぎていた頃で、紆余曲折を経て開港した空港でしたが、既に国際線が多く発着する「日本の玄関口」と呼ぶに相応しい国際空港として認知されていました。折しもバブル経済になる直前で、成田空港の開港もあって海外旅行が身近になりつつあった時期でもありました。この成田空港を舞台として曲が作られました。

作詞を康珍化さん、作曲・編曲を林哲司さんが手掛けました。この「康珍化・林哲司」コンビは当時のゴールデンコンビで、杉山清貴&オメガトライブの「SUMMER SUSPICION」を聴いた明菜さんが感銘を受けて、直接指名したことで、このコンビによって作られました。歌詞は、遥かな異国の地へ居る想い人を追っかけて、成田空港の北ウイングから旅立つ様子を描いたものとなっています。

Love Is The Mystery わたしを呼ぶの
愛はミステリィ 不思議な力で

イントロのストリングスがまさに「サスペンスドラマ」のような入り。そしてこの歌詞。本当にシビレますね。まさにミステリーの如く、急に私は彼に会いたくなったのです。

映画のシーンのように すべてを捨ててくAirplane
北ウイング 彼のもとへ 今夜ひとり旅立つ

まるで映画のように全てを捨ててまで、彼のもとへ行こうとしています。そして成田空港の北ウイングに覚悟を持って佇むのです。

いちどはあきらめた人 心の区切りのTeardrops

彼のことを完全にあきらめており、心の中に想いを閉じ込めていました。それが何故か急に想いを呼び起こしたのです。まさに「愛はミステリィ」

都会(まち)の灯り ちいさくなる
空の上で 見降ろす

そして暗い夜空の中、想いを乗せて成田を発ったのです。徐々に東京のネオンが小さくなり、いよいよ日本を出るんだとドキドキしています。

夢の中を さまようように
夜をよぎり追いかけて夜間飛行(ミッドナイトフライト)

長い道のりを掛けて異国の地へ住むあなたへ会いに行く私。夢の中にいるような状態になります。本当に私は会いに行くんだ、とフワフワした感触なのかもしれません。

Love Is The Mystery 翼ひろげて
光る海を越えるわ すこし不安よ

飛行機は長いフライトに向け、翼をひろげて目的地へと向かいます。そして海を越えて水平線の向こうへ行くとなると、少し不安になってしまうという少女のような一面も見せるのです。

8ビートのポップス・歌謡曲ですがロック要素も含んでおり、明るさよりも夜をイメージしたダークな作風となっています。曲ラストのコーラス・グループ「EVE」による英語の歌唱も、歌謡曲っぽさよりも洋楽をイメージしたものではないかと思います。ドラムスは宮崎全弘(まさひろ)さんによるタイトでキレの良い演奏、ベースは富倉安生さん、エレクトリック・ギターは松原正樹さん、キーボードは富樫春生さん、パーカッションは木村誠さんによるものです。コーラスは前述の「EVE」のみだけでなく、比山清さん・木戸泰弘さんと、作曲者の林さん自らも参加しています。

成田発、愛する人を追った恋の夜間飛行。明菜さん以外に歌いこなせる方は出てこないと思います。



そして、リリースから40年が経とうとする2023年11月に、林さんのトリビュート・アルバム『Saudade』がリリースされ、この「北ウイング」が明菜さん本人による新録セルフ・カバーとして収録されました。2017年以降体調不良で表舞台に出れませんでしたが、実に6年ぶりに歌声を披露してくれました。ピアノ+ストリングスによるバージョンです。ここではティザー映像ですが、2023年の明菜さんの歌声を載せておきます。





おまけ:「北ウイング」がリリースされた1984年の明菜さんのアルバム『POSSIBLITY』には、「北ウイング」の続篇となる「ドラマティック・エアポート -北ウイング Part Ⅱ-」が収録されています。こちらも康さん作詞、林さん作曲となっています。(アレンジはアレンジャーの萩田光雄さんによるもの) こちらも載せておきます。



↓2年前に書いた明菜さんの曲はコチラから。「十戒 (1984)」 も名曲です。