本日は桑田佳祐「遠い街角 (The wanderin' street)」(1988年リリース、アルバム『Keisuke Kuwata』収録) です。
「悲しい気持ち (JUST MAN IN LOVE)」「いつか何処かで (I FEEL THE ECHO)」でも述べていますが、アルバム『Keisuke Kuwata』では、それまでのデジタル・ロック路線から離れ、ポップスに焦点を充てた作風となっています。以降の桑田さんのソロ作品でも、ここまでポップに振り切ったアルバムはありません。
そして、この『Keisuke Kuwata』ではもうひとつ特徴があります。それは、ゲストミュージシャンが多いことです。1986年と1987年に日本テレビ系大型音楽特番「メリー・クリスマス・ショー」で、多くのミュージシャンと共演したこともあり、『Keisuke Kuwata』ではその経験からコーラスで豪華なミュージシャンが参加しています。「悲しい気持ち (JUST MAN IN LOVE)」では、シンガー・ソングライターの杉真理さんが、「哀しみのプリズナー」では歌手のアン・ルイスさん、「Big Blonde Boy」ではミュージシャンの桑名晴子さん(歌手の桑名正博さんの妹) がそれぞれコーラスで参加しています。
そしてこの「遠い街角 (The wanderin' street)」では、かねてから親交の深い竹内まりやさんが、サビのコーラスで参加しています。この年、桑田さんはまりやさんの夫・山下達郎さんの「蒼氓」に原由子さんと共にコーラスで参加しており、双方の作品に参加し合うという現象が見られました。
歌詞は、時代の流れで変わりゆく街並を憂い、哀しみを表現したものです。
「夢でも訪れる街 心の片隅に想うばかり」
かつて育った街は、夢でも鮮明に映像が浮かぶほど、忘れられない街でした。
「渇いた時代(とき)の流れにつれ 変わりゆく人並み」
街も時代の流れに逆らうことなく、人々も景観も変わっていきます。
「今でも忘られぬ日々 甘くてしびれた恋もした」
特に思い出に残っているのは、恋した思い出みたいで、甘い恋もすれば、苦い別れもしたようです。
「別れた駅に降り立つたびに 振り返る 街角」
駅で別れを告げたようで、その駅で降り立つ度に、別れた苦い思い出が蘇るみたいです。用もなく、気になって街角へ視線を向ける様子を描いたのは、これまでのサザンの曲ではあまりない、洗練されたからこその歌詞のような気がします。
「瞳の奥に見慣れた顔が 浮かんで消える秋なのに」
「あの頃には戻れない」
かつて恋をした相手の顔は、やはり鮮明に思い出せるのに、時が過ぎたこともあって、もう戻れません。後悔のような気持ちなのでしょう。
「Oh oh the wanderin'street」
(これは迷い道なんだ)
「Oh oh just never to meet」
(でも逢うべくして出逢ったんだ)
「夢の迷い道」
暮らしていた街角と人生を重ねたような歌詞です。人生も迷うことはありますので、それを描いた歌詞だと思います。このサビでまりやさんのコーラスが聴こえます。見事なハーモニーです。
「the time has gone」
(時が来たんだ)
「いつまでも 心に」
成長して街を出るときに、色々な想いが駆け巡りますが、色々な経験や風景はいつまでも心に残り続けます。
ピアノとアコースティック・ギターを取り入れたメロウなバラードで、この曲もサザンでは聴けなかったサウンドが展開されています。ピアノ、シンセサイザー、シンセ・ベースは小林武史さんによるものです。アコースティック・ギターは「KUWATA BAND」のギタリスト、河内淳一さんの演奏です。
何処か懐かしさを感じるポップス・バラード。洗練された詞と曲は、見事に完成度の高いポップスを作り上げました。