本日は山下達郎「世界の果てまで」(1995年リリース) です。
1993年にシングル「ジャングル・スウィング」と企画アルバム『Season's Greetings』を発売して以降、1994年は「パレード」のシングルカットと、シュガー・ベイブ『SONGS』の初CD化以外、新作の発表はありませんでした。というのも、それまで自身、ならびに竹内まりやさんのレコーディングで使用していた東京・芝浦にあった「スマイルガレージ」が湾岸地区の再開発事業に伴い、閉鎖・解体が行われてしまい、次なるレコーディングスタジオの拠点が決まるまで、都内各地のレコーディングスタジオを転々とすることになってしまいました。中には達郎さんが望むグレードに達しないスタジオもあり、その度に制作に満足せず、新作の発表が全く無い状況に陥ってしまいました。その間にCMソング(以前投稿した「SOUTHBOUND #9」も最初はこの時期にレコーディングされています) やドラマ主題歌(後に『COZY』に収録される「LAI-LA -邂逅-」) などは発表されるも、シングルやアルバムに収録されるに至らない状態でした。
そんな中で1983年にムーン・レコードに移籍してからここまでの記録を残すという意味合いで、ベスト・アルバム制作の話が持ち上がります。実際はオリジナル・アルバムが出来ないならベスト・アルバムを出してくれといった商業ベースの話でした。達郎さんは当初は難色を示していましたが、テレビドラマのオファーがタイミング良く来たことで、そのタイアップソングをシングルリリースすれば曲数が揃うということで、リリースに踏み切りました。そのタイアップソングがこの「世界の果てまで」となります。
この曲は松雪泰子さん・深津絵里さん主演の読売テレビ・日本テレビ系ドラマ「ベストフレンド」の主題歌として書き下ろされました。ドラマは女性の友情を描いた作品となっており、その世界観と、冬に向かう季節に青山の絵画館通りの雨の日の情景をイメージして作られた、バラードとなっています。
歌詞は男性目線となっています。雨の日に失恋した友人の女性を慰める様子が冒頭で読み取れます。
「雨にまぎれて あなたのほほを濡らす涙の訳 僕は知ってる」
「もう恋なんて二度としないと 強がりは悲しい 別れの記憶」
この歌詞で状況を全て悟らせてくれます。しかし、
「だけど夢にまで 入り込んで来て」
「ささやく瞳はまぶしいほど」
と話すほど、実は元々友人の女性に想いを寄せているが、手が届かないくらい眩しい存在だと言っています。自分も想いを寄せているが、中々言い出せないで辛い気持ちを
「どうしてこんなに 切ない気持ちにさせるのあなたは」
という詞で女性に対する、想いと友情の狭間で揺れ動いていて切ない様を吐露しています。
「今すぐにでも抱きしめたいのに」
と思うけども、まずは友人として支えてあげようとして
「あなたの風になりたい」
と綴っています。
1番の歌詞だけでも一つのストーリーが込められていますが、私は特にこの歌詞が好きです。
「遅すぎた想い どうぞ責めないで」
「あなたを愛した 心までは 心までは」
この遅すぎた想い。長い友人関係から当初は恋心もない、気心の合う友人関係から始まった2人。けど、徐々に触れあうごとに、そして友人の女性が悲しむようなことがあると、恋心に変わっていき、「遅すぎた想い」になると思っています。この想いを「責めないで」「あなたを愛した」と伝えています。「遅すぎた想い」は私もありました。だからこそこの曲を聴くと、当時の事を鮮烈に思い出します。
ゆったりとしたバラードですが、生音とコンピューターを駆使して演奏されており、アコースティックな質感を感じられる曲調となっています。全ての楽器を達郎さん自身で演奏していますが、その中でも特に思い入れがあるのは間奏で使われるオートハープだそうで、この音色が好きだと達郎さんはライナーノーツで明かしています。
達郎さんのバラードでも特に好きな1曲。この時期にピッタリの曲です。