学校からの帰り道、青空は太陽がまぶしくとても暖かくて、私は喜びに満ち溢れていた。
太陽を肌いっぱい浴びれる喜び。なんて素敵なんだと。
田園風景が広がる夏の一本道は、いつも下校時に通る道だ。
そこを通っていると、一匹の鳥が鳴き声を上げながら、近づいてきた。
鳥は地面に着地した。よく見てみると、くちばしに手紙らしきものをくわえていた。
てか、間違いなく手紙だろう。
驚いているあまり、無口でその様子を伺っていると、鳥は手紙を私の前に置いて、
「ミテーミテー!テガミミテー」
とまるでインコのような鳴き声で叫び、去っていった。
なんだったのだろう。あまりに不思議な光景に唖然としたが、私はその手紙を見てみた。
手紙には「海の宴にご案内します。明日の朝8時に自宅から最も近い、鳥山海岸の赤い家で待っています」
と書かれていた。
場所は知っている。自宅から徒歩10分くらいの距離にある、幼少期から遊びによく行った鳥山海岸だ。
「何が始まろうとしているんだ?俺は?」
そういえば、あの鳥はどこかで見たような気もする。が、思い出せない。
手紙に書いてある時刻に鳥山海岸に行った。
赤い家とは、赤いレンガで作られた洋風の建物で、「赤い家」と看板で目立つように書かれているので一発でわかる。
なぜか、いつもは人がたくさんいるのに、その手紙に書いてあった時刻の鳥山海岸には、人はゼロだった。
そして、鳥山海岸に着いて、真っ先に驚いたのが、海賊船としか思えない大きな船があったことだ。
漂着していたのだ。海賊船が。
「これはいったい?」
ワクワクが止まらなかった。
鳥が手紙を置いて行った時点で、夢でも見ているのかなと、舌を噛んだりしたが、痛くてこれはまぎれもない現実だと理解した。
「来てくれてありがとう!これから海中宴に案内するよ!」
ウサギがいきなり魔法のように目の前に現れた。ピンク色の煙を出しながら。
「えええええ!!!」
冷静な私でもかなり動揺した。
「どういう……なんでウサギがしゃべって……」
「そんな驚かなくたっていいだろ?人間は人生で一度は不思議な体験をするものなのさー!」
「まあ、いいや。ははは。面白い。今までにない体験だわ。よし、海中宴に行ってやる!」
海賊船が動き出した。
海賊船は木造のよく映画に出てきそうなものだ。
ロープにつかまって船に乗った。しゃべるウサギはジャンプして余裕で海賊船に乗った。
「海中宴ってどんな宴なの?」
「海の中に宮殿があって、そこで恩返しの宴が始まります」
「恩返し?どういう意味?」
「それは後程…」
船は進んでいって、いきなり海の中に潜った。
呼吸はできないんじゃないかと思っていて、死んだ!とすら思ったが、
なぜかこの時だけは海中でも呼吸ができたのだ。何が起こっているのかわからない。
このいつもの現実の世界の場所は変わってないが、登場人物や世界の理が変わってしまった。
鳥がミテーと言いながら手紙を置いていき、しゃべるウサギがいきなりピンクの煙とともに現れ、
海中に何も装備してないのに呼吸ができるというね。
ああ、忘れていた。こんなおとぎ話のような、現実離れした体験を一度でもしてみたかったんだ。
幼稚園の頃は、いつもそう思っていた。でも、だんだん大人に近づくにつれて、そんなものは実現しないとわかってきたんだ。
しかし、今、最高にファンタジーの世界にいる。面白い。夢でもいい。とにかく楽しみたい。
海の中をどんどん進んだ。深海に行った。しかし、太陽の光が届かないはずが、いつまでも明るくて、視界が澄み切っていた。
たくさんの魚たちが泳いでいて、大きなマグロやクジラすらいた。
船の上から下りられなくなっていて、海中に放り出されて、迷子になる心配はない。
見えない透明の壁が設置されているのだ。だから、船の外には行けなかった。
30分ほど、船で海中を進んだ。
大きな城が海底にあった。
ホワイト大理石のような神殿といったほうがいいだろうか。
船から私とウサギが降りた。
亀の門番にウサギが挨拶した。
「例の少年を連れてきた。さあ、宴の準備を!」
亀は私を見て、ニッコリと笑顔になった。
いきなり、神殿が花のようにガチャガチャ変形して、姿が変わってしまった。
真ん中にたくさんの椅子と、たくさんの美味しそうな料理と、テレビとカラオケ機器があった。
私は楽しんだ。文字通り、海の中で宴が開催されたのだ。
魚たちから手と足が生え、言葉をしゃべり、数十人が宴を楽しんだ。
銀色のスーツを着たこの宴の主催者という人が、ある絵を見せながら、私に話しかけてきた。
「あなたの5歳の時に描いた、この絵が現実のものになったのです」
「あっ、この絵は・・・」
完全に思い出した。その絵を見てから。
まさか、現実ものになるとは。
銀色のスーツの人は人間だった。見たことがない顔だが。眼鏡をかけている。
「僕ですよ!!!以前、手当してもらったハトです。あの時はありがとうございました」
「えっ?半年前に道路に倒れているところを助けてあげたハトのこと?あのハトがあなただったの?」
「そうです。あのハトこそ、この海の中の宴の主催者である僕です!」
どうやら、ハトの恩返しらしい。ハトがなぜ私の昔書いた絵を知っていて、それを現実にしようと思ったのか、この魔法のようなファンタジー世界はどういうことなのか?わからない。
でも、夢ではないことは確かだ。
4時間の長い宴だった。
ある扉の前に案内され、そこを通ったら、鳥山海岸にまた戻った。
今度は辺りに人がいる。きっと、魔法世界から、いつもの現実の世界に戻ったのだろう。
不思議な体験だった。
そのハトはこんなこと言っていた。
「人間は必ず1度は不思議な魔法の世界へと案内されます。もし、まだ訪れてないなら、これからということです。死ぬまでには、魔法の世界に一度は足を踏み入れることでしょう」