「出ないなー…」

目の前で看護師さんが苦悩して呟いている。


今週の月曜に2クール目を終えて退院し、
木曜は外来で血液検査をしていた。

月曜にも血液検査はしているんだけど、
我が主治医のクールビューティは、堅実&慎重派なので、念のために木曜にも採血して状態を確認したいとの事だった
(前回は2週目から急激に好中球が落ちたので)

一患者としては、安心だし有り難いことでございます。本当に。


「出ないなー…」
と、再び看護師さん。

「すみませんねぇ。採りにくくて」
「いえいえ、本当にすみませんー!(焦)」
看護師さんが焦りまくりながら、
私の左腕のあちこちをプニプニと指でなぞって血管を探している。


そう。私の血管は細い。
そして果てしなく深い。
まるで母なる海のように。


なーんて、アホな事を言いたくなる位に自分の血管には昔から困っている。
(一番困っているのは看護師さんだけど)


会社の健康診断で刺された最高回数は8回。
とことん採血担当者泣かせの血管なのだ。
まぁ、そのぶん何回か刺される事自体には、
ある程度慣れっこになりつつある。
刺した後に中でグリグリ血管を捜されるのだけは、ちょいと嫌だけど。


「うーん…」
かれこれ5分位、
ずっと呟いている看護師さんが気の毒になってきた。


「あのー、もう気にせずプスプス刺してみて下さい。最高8回の記録もあるし慣れてるので(笑)」
「8回!?そんな何回も刺したら申し訳ないし…ちょっと上手な人を呼びますね。私、自信なくて~」


あぁ、また看護師さんの自信をへし折ってしまった…申し訳ございません。


「なになに?そんなに出にくいの~?」
ヘルプで来た別の看護師さんが、私の太い腕をプニプニし始めた。
「うーん………………ないねぇ!」


ありますよ。生きてますから(笑)


「弾力はあるんだけどなぁ、細くて深いタイプですね。私、割と思いきって刺す方なんだけど…それでも悩むなあ…うーん、一度やってみますね!」
「えぇ、もう好きにやってみて下さい(笑)」

プス

…出ない…。

ムニムニ(ちょっと捜す)

ちょろりん

「出た!」←3人唱和

ちょ…

「あ、止まった」
「ガーン

ムニムニ(ちょっと捜す)

ちょろりん…ちょちょちょちょ…

「出た!私この位置両手で維持するから、(試験管)差し替えてー」
「分かった!勢い弱いけど出てるから大丈夫!なんとか足りそう」



すみません…2人がかりで採血していただいて。
そんなこんなで、何とか1回刺すだけで採血終了。


看護師さんが注射跡にテープを貼りながら
「夏は、暑いぶん出やすい筈なんですけどね」

「じゃあ私、秋冬が怖いです…」
化学療法は10月までは続くからなぁ。
採血もルートもどうなることやら。

「冬は、事前にカイロ等で暖める必要があるかもしれませんね」
「ですねぇ…トホホ」
採血センターを後にして、婦人科外来へ向かった。


余談だが、1ケ月前に採血をした時のこと。


20分近く叩いて温めたり色々な所を刺したが、どうしても出ず、
最終的に手首の付け根(親指側)から採血をした。

次の週の採血時にも出にくく、
「前回はどの辺で採血しました?」
と尋ねられたので、手首の話をした。

すると、
「えっ!最終手段だったのね…」
と、看護師さんが呟くように言った。

「最終手段…?」


聞けば、そこからの採血は最終手段らしく、
出来れば避けるようにというのが、
この病院での採血担当者間の認識らしい。

※↑の辺り


「ここには手の神経が集中しているので、余程の事がないと刺さないんです。まぁ、神経を傷つけるほど深く刺すことはまず無いんですけどね。とはいえ何かあって患者さんの手が不随とかになってしまうと大変なので…それに、ここに刺した私達医療従事者は、何かあった場合は絶対に勝てないんですよ」

「ああ、裁判でね」
「そうなんです」


医療従事者の人々は凄い。
人様の体に触れて治療するということは物凄いリスクを抱える訳で、それには相当の覚悟が必要だと思う。
ましてや昨今はクレーマー多発社会。
執刀医を明確にせずチーム制をとるのも、
そういう部分の個人攻撃を回避する意味合いがあるのかもしれない。


「病院でも驚くようなクレームが多いんでしょうね、私の会社の店舗でも変なクレームが年々増えてきてるから」
「え、そうなんですか?」


流通業でも本当に首をかしげるようなクレームが最近多いのだ。


店頭入口の手の消毒液を使ったら、目に少し飛んだ。どうしてくれるんだ。病院に行くからタクシー代金と治療費をくれ。
(モニターカメラの記録を確認すると、消毒液は使っていなかった)

トイレで手を洗ったら服に水が飛んでビシャビシャになった。時間もないしクリーニング代をくれればいい。いつも使っている近所のクリーニング屋を使うから、ここの店内のクリーニング屋の無料券なんていらない。時間がないから今現金でくれればいい。店が閉まるし帰りたいから早くしろ。
(と、閉店間際に家族全員で怒鳴りまくる※時間がないと言って、現金を出させやすくなる閉店間際を狙う)

店員が私の前で眼鏡をかけたのが気に入らない。私の顔がそんなに変なのか?だから眼鏡をかけて見たのか?眼鏡をかけるなら、一言先に「眼鏡をかけさていただきます」と言って、こちらの了承を取ってからかけるべきだろう。
もっと従業員の教育をしろ。
どう改善するのか書面にして提出しろ。
(洗濯についての質問をお客様にされたので、胸ポケットの老眼鏡を出して洗濯表示の確認をしただけだったのだが…)

買い物に来たけど、さっきうちの子供が店内を走って転んで擦り傷を作った。なぜ店員は走るのを注意しなかったんだ。どうしてくれるんだ責任をとれ。←と夫婦で言う。
(一緒にいた親の監督責任はいずこへ?)

買い物をしたら、レジの店員が失敗して訂正処理で散々待たされた。私の貴重な時間を長々と潰された責任をとれ。時間を返せ。詫び状を今すぐに家まで店長に持ってこさせろ。会社としての見解も社長に書かせて持ってこい。
※とりあえずまずはお詫びに…と伺った従業員を、玄関先で1時間半立たせて拘束して帰らせない。
(処理ミスは大変申し訳ない事なので、かなりお待たせしてしまったのかとレシート記録時間を調べると、訂正に要した時間は1分のみ)

魚を買って食べたら異常に塩辛い。こんな体に悪いものを売るな。健康を害したらどうしてくれるんだ。加工がおかしいんじゃないのか。
食べかけの商品を確認させてくれ?完食したから残ってない。とにかくこんな商品はおかしいんだから返金しろ。
(レシート記録から調べると、加工調理した魚ではなく、ただの切り身と判明。店頭の同じ商品を確認するも塩分度は問題なし。よくよく尋ねるとムニエルにしたとのこと。ご自身が調理上で使用した塩胡椒の塩分であると伝えても納得せず)


こうやって思い出してあげ出すとキリが無いのだが、
なんだか世の中が病んでるんじゃないのか…と店舗勤務の頃はよく思った。


もちろん、接客ミスや商品不良等には真摯にお詫びして対応して改善していくし、
そういう正しいクレームはいいのだけれど、
上記のようなクレーマーレベルの頻度が年々高まっていて驚いてしまうのだ。


私は日本人の
買った側も「ありがとう」を言う精神が大好きなんだけどな。


海外では、買い物の支払時に「Thank You」を言うのは売り手側。
でも、日本人は買い手側もありがとうという言葉を使う。


「買い物をして金を払っているのにThank Youと言うから、このアジア人は日本人だなとすぐ分かるよ」
と海外の売店で言われたことがある。
なるほどなーと思った。


買ってくれたことに対しての有り難う
売ってくれたことに対しての有り難う


売り手側も買い手側も
感謝の気持ちを対等に口にしあえる
そういう日本人の精神というか、国民性が私は好きだ。


だから、横柄な悪質クレーマー的なものが増えている事は、個人的には少し悲しくもあるんだな。
まぁあまりに酷いものには社として毅然として突っぱねるし、威力業務妨害や不当要求はさっさと警察に届け出るんですけどね。


「私達の非に対しての妥当なクレームは、自分達の為になるので逆にありがたいんですけど、悪質クレーマーは本当に困りますよね…」
と、そのときの看護師さんも言っていた。
うんうん、分かるよその気持ち。



婦人科に着くと、すぐに診察室に呼ばれた。


「どう?調子は?」
と、クールビューティ(主治医)

「元気ですよー。手足の指の痺れが残ってるのと、時々下腹部が痛むときがあるけど、まぁ、あんまり気にしないようにしてます」

「元気…手足の痺れ…と」
カタカタと電子カルテに打ち込むクールビューティ。


多分、
毎回【元気】って打ち込まれてるな私(笑) 



「血液もね、良かったよー。問題なしです。白血球も好中球も大丈夫。ちょっと待ってね、 今結果をプリントするから」

出てきたプリントを見る。


白血球  3600  L
好中球  57.8


「うえっ。先生、白血球にLOWマークついてるけど?」

「3600あるから大丈夫。好中球も2000越えてるから、全然問題なしだよ」


3600×57.8%=2062.8
※うちの病院の血液検査の好中球は%表記なので、
    計算で白血球内の好中球数量を出します


「ほんとだ。2000ある」
「うん。抗がん剤投与の翌週としては、いい感じだと思うよ」
「良かったー。グランしなくて済んだ♪」


好中球の数を上げてくれる注射のグラン
(グランシリンジ)を打たれると
私は5時間くらい背中の腰の辺りがガンガンに痛くなる。
なので、出来れば避けたいんだよね。


とはいえ、きっと来週はもっと好中球が下がるからなぁ…
どうか今回はグラン様に出会わなくて済みますように。


「あと、先生。しこりは消えました」
「あ、そうなの?良かったねー」


実は、2クール目の前週の風呂上がり。
陰部の横の左足の付け根(パンティライン上)に、銀杏くらいのしこりを見つけたのだ。
痛みはなく、たまたまタオルで体を拭いている時に気づいた。


過去にも、こんな感じの吹き出物が出来たことは何回かあるけれど、
さすがに癌の手術後の今はちょっと焦った。
しかも痛くも痒くもないしこり。


なんじゃこりゃ!怖っ!
と、病院に電話して、外来時に先生に診てもらったのだ。


「うーん…数週間様子を見よう。それで変化が無かったり大きくなるようなら、生検もできるから」
とクールビューティに言われて様子を見ていたんだけど、
2クール目が終わった頃には、跡形もなくすっかり消えていた。


ん…でも、考えてみたら抗がん剤で小さくなったのか?
いやいや、やめてよねそんな(笑)


ただの吹き出物じゃなかったのかも…
いやー吹き出だって。ははははは(笑)


明細胞は怖いし…しこりが癌だったら…
ってか、明細胞で抗がん剤が効いてしこりが無くなったならラッキーやん?(笑)
マイナス思考打ち消しのルーティン



「先生、また何かあったらすぐに言うので」
「うん。そうしてー」



3クール目の入院予定を話し合って、この日はこれで終了。
午後からは遅番シフトで店回りの仕事へ。


うん。
ながらウォーカーにも慣れてきたかな。
どうか来週の血液検査で好中球が落ちてませんように…



グラン様の出番がないことを祈る私であった。