新入社員歓迎会というものが合った。
僕は会社に入って三年目なので先輩として、この歓迎会を迎える事になる。
その帰り道だった。
ある女の子と帰り道が一緒だからとタクシーで2人で乗っている時の事だった。
その女の子が内田だ。
内田は今年入社したばかりの新入社員だ。
今日歓迎される側の方に位置している子なのだ。
愛想がとても良く、笑顔が誰よりも似合う子だった。
社内では1番の人気を誇っており、もうすでに何人かに告白されたと噂が流れていた。
「あのー西尾さん」
「なんだ?」
「相談したい事があるんです。聞いて欲しいんですけど、ダメですか?」
と2人で今日の歓迎会の感想等の話をしていた時に内田がそのまた別の相談というものをしてきたのだった。
何故あまり接点の無い僕に相談なんだ?
と思ったりもしたが、接点が無いからこその相談なのかもしれないと、僕は納得して話を聞いた。
内田からすればほろ酔いだった事も、話やすくなった要因になるのかもしれない。
「別にいいよ。僕に解決ができるかどうか分からないけど」
入ったばかりの会社に対する不安だろうか?それとも社会に対する不満だろうか?
「あのー私、実は……ストーカーにあってるんです」
「ストーカー?」
突然の深刻な告白に驚いた。
どうゆう態度で聞けばいいのか分からなかったので、とりあえず聞く事に専念した。
「そうなんです。誰かは分からないんですけど、ポストに私の写っている写真が入っていたり、誰かに見られているような感じがあったりするんですよ。どうしたらいいのか分からなくて」
「警察とかに言ったのか?」
「はい。言ったんですけど、何日か見張ってもらって、結局その期間には何も無くて、次に何かあればまた教えて下さい。とその時はそれだけで…」
少し俯きながら、内田は話を続けた。
「警察官の人達が見張りをやめた直後から、また始まって。それに、最近プレゼントが入っていたんです」
「プレゼント?ストーカーからか?」
プレゼントという位なのだから、綺麗に包装されていたのだろうか。
「多分…それで、プレゼントの中身は…下着だったんです。柄物の…」
さすがにそれは言いにくいらしく、内田の声は小さめになってる。
柄物のって…それは必要な情報なのか?
「私、部署内で話してたんです。柄物の下着が欲しいって…それを誰かに聞かれていたのかもしれない…それが余計に怖いんです」
どんな話をどこでしてるんだよ…と思ったけど、そんな話もするんだなと少し感心した。
不謹慎だけど。
「って事は部署内にストーカーが?!」
「そうかもしれないです。私引っ越しして、まだ一ヶ月半程で、そこに住みだしてすぐの事だったし…」
「その下着の話は誰にしたんだ?」
「それは部署内の人なんですけど、その子がそんな事言いふらすとも思え無いし」
「うーん。難しい問題だな。今も続いてるんだよなー」
相手の正体が分からない以上余計に難しい問題だ。
「そうなんです。それで、これは相談というか、お願いになってしまうんですけど…」
言いにくそうにそう言った。
申し訳なさそうに。
「お願い?」
「はい。あの~。一緒に帰ってもらえませんか?」
「一緒に帰る?!会社からって事なのか?」
「はい。彼氏がいるって思わせれば、なんとなく諦めてくれるんじゃないかな~って思ったんです」
どういう対策になるだとか、そういう具体的な改善作では無いようだ。このままの現状を保つより、駄目もとで何かをしたいって事なのかもしれない。
「そうだな。そうゆう事なら、僕は全然かまわないよ」
僕はその話を断る事が出来なかった。
僕はそういう事が出来ない。
それから一週間程彼女とかかわる事になる。
「私ここです」
と運転手に内田は告げた。
一緒に帰ると決まった直後にタイミング良く、タクシーは彼女の家に着いた。
そこは僕のアパートから徒歩五分程度の場所に位置するアパートだった。
ホントに近いんだな。
会社が用意したアパートだから、近くてもなんら、不自然な事は無いのだけど。
もしかして、犯人も同じ部署内だとしたら、この辺に住んでいるのかもしれないなと思った。
「それじゃあ、また明日」
と内田に別れを告げて、そのままタクシー運転手に僕のアパートまでの道のりを教えた。
そのストーカーはどうゆう思いで、プレゼントを入れて、どうゆう反応を期待したのだろうか。
それだけで良かったのか、それともそれ以上を求めているのか、どちらにしろストーカーに話を聞かなければ、分からない事だなっと考えながら、帰宅した。
約束通り一緒に帰宅する事になった。
約束では無く、お願いなのだから、彼女の願い通りだ。
自転車で僕のアパートから会社まで15分程だ。
僕の自転車はちなみにママチャリだ。
カゴが少し大きめで、実用的だ。
デザインにこだわらず、見た目より性能重視である。
それは僕のポリシーだ。いや、言い訳だけど。
通勤時は自転車で毎日通っている。
しかし、帰りは内田が徒歩なので、それに合わせて自転車には乗らず、自転車を押しながら、横並びで歩いている。
もう日は暮れていた。
街頭は少なく、人通りも決して多くは無い。
それも、内田は一緒に帰る事を頼んだ、理由の一つだろう。
僕は昨日にストーカーの話を聞いていたので、少しでも楽しい話が出来るようにと、話題を探していたがなかなか思い浮かばずにいると、彼女の方から、話かけて来た。
「ありがとうございます」
一緒に帰っているお礼の事だろうと頭の中で咀嚼した。
「なぁに、全然いいさ。それより歩いて帰るのってさ、オフィスワーカーとしては貴重な時間だよな」
歩いて帰っている事にも彼女の罪悪感が向かいそうだったのでこの話題を出した。
申し訳なさそうにされるよりかは、楽しく歩いている方がカップルっぽいしな。
「私も歩くの好きです。走るのは苦手ですけど」
私も?
別に僕は好きとは言ってはいないけど、話をスムーズに進めるために、流す事にした。
「社会人になって、走る事なんて無いから、苦手でも大丈夫だろ」
「小走りする事は毎日ですけどね。朝はいつもギリギリなんですよ」
「それにしては、いつも綺麗にしてるんだな」
と僕は何も考えずに言う。
「えっ?!いつもですか?私を西尾さんが見てくれているなんて、光栄です」
純粋な眼差しで、僕を見ながら、そんな事を言った。
「本当はそれで、遅れているんです。だから、西尾さんのせいと言ってもいいくらいですよ」
「えっ?僕のせい?どうゆう事だ?」
「西尾星です」
彼女は笑顔でそう答えた。
「僕は星なのか?!」
彼女が何が言いたかったのかあまり理解出来なかった。
彼女は伝えるのがそこまで得意じゃ無いみたいだ。
「私にとってのスターです。眺めてばかりの人なんですよ」
彼女は相変わらず、楽しそうに笑っている。
「私は結婚するなら、西尾さんみたいな人としたいな」
「付き合うなら、僕じゃないみたいな言い方に聞こえるぞ」
「付き合うのも西尾さんみたいな人がいいです」
ボケのつもりで言ったのだけれど、気を使わせてしまった!!
自意識過剰なボケをスルーされると、とても恥ずかしい。
「西尾さんって本当に優しい人じゃないですか?急なお願いだって、こうやって付き合ってくれてるし」
「そうか?誰だって、手伝うんじゃないか?軽い約束って言う事じゃ無い訳だし」
「そんな事無いです。少なくても私は出来ないです。怖いし…」
「怖いからだろ?たまたま僕はそこらへんが、大丈夫なだけだよ」
「でも、違います。西尾さんは自分の事より、他人の事を優先する人だから。私は自分の事で精一杯…」
持ち上げられ過ぎているような気もするけれど、なんて言うか、悪い気はしないな。
「みんなそうさ。自分の事を考えないと、誰も考えてくれないからな」
「でも、西尾さんは考えてくれてる」
「僕も自分の事しか考えて無いよ。僕は自分がしたい事やしなくちゃいけないと思った事をしているだけだよ」
「でも、私は西尾さんはやっぱり私の事も考えてくれてると思ってしまうんです。なんででしょうね」
少し照れているような言い方だった。
「そうなのか?でも、目の前に困ってる人がいたら、手を差し伸べるのは当然だろ?見過ごす事なんて出来ないさ」
僕は知ってしまっているのだから、僕さえ手を伸ばせば助かる人がいる事を。
見過ごすのは後味が悪い。
気持ち悪くなる事も。
そう、気持ちが悪になる。
悪になるような。
「僕はそうしたいだけだから」
そうしたいだけ。
本当に自分勝手に。
「そんな事を言えるのだって凄いと思います。西尾さんは私の中の尊敬したいランキング殿堂入りです」
「そのランキングの僕、以外のメンバーが知りたいよ」
「今は1位は犬です」
「はじめから人じゃないじゃないか」
「2位はサルです」
「ん?!また動物?」
「そして、3位はキジですね」
「なぜ、キジだけ鳥じゃなくて、固有名詞なんだ!」
「ちょっ!ちょっとまてよ…!その並び…僕が殿堂入りで犬、サル、キジ…ま、まさか…」
「僕の事を桃太郎だと勘違いしているんじゃあ、ないだろうな?!」
「そんな事無いですよ。桃太郎って、あれは架空の人物ですよ」
「真面目に訂正された!!」
「4位は羊です」
「本当に桃太郎は関係無かったっ!!」