気がかりなことがある。
あいつから手紙が来ないのだ。
あいつとは30年来の付き合いだ。
付き合いにも色々あるが、これは特別なやつだ。
そんな友人は、もうふたりしか残っていない。
あいつは、その内のひとりだ。
昨秋、あいつは拘置所から刑務所へ移送された。
刑務所は拘置所と違って面会が許されない。
やり取りは手紙のみである。
刑務所に着いてすぐに書いたとわかる手紙が届いた。
住所から、東北のある県にいるのだとわかった。
あいつは、嫁の実家がある、北への移送を希望していた。
嫁と幼い息子が面会に来てくれることを望んでいたからだ。
手紙には、希望が叶ってよかった、と書いてあった。
さらに、あいつは、オレからの手紙を望んでいた。
オレは毎月出してやろうと、郵便局へ行って、あいつの懲役期間分の切手を買った。
あいつが好きな馬の絵柄の切手を選んだ。
あいつが容疑者として逮捕された後、
あいつの嫁からの電話で、逮捕の理由を聞かされた。
嫁は弁護士を通して、検察からあいつのことを聞かされてショックを受けていた。
嫁は、あいつの本当の職業に、腹を立てていた。
また、嫁をも騙していたことにも。
嫁は、真実をしりたくて、オレに電話してきたのだ。
オレは、あいつの味方をしながらも、すぐに実家へ帰るよう勧めた。
それから、嫁は電話に出なくなった。
最後の手紙から3ヶ月経った。
あいつから手紙が来ない。
考えられることは、
「手紙を出せない何らかの理由がある」
「オレからの手紙が届いていない」
いづれにしても知る由もない。
会えない、連絡も取れない。
オレには、そんな相手が2人いた。
今では、どちらも解消されているが。
ひとりは母、ひとりは娘。
母は駆け落ちをして8年間音信不通。
娘は、新しい父親の元。
どちらも居場所がわからなかった。
オレは、こちらの居場所を知らせる方法をあれこれ考えた。
出した答えは、「名を上げる」だった。
そうして15年前、会社を起こした。
すると、不思議なもので、まず娘、そして母と繋がることができたのだ。
いまだに、名は上がらずなのに。
何を言いたいのか、というと
行動を起こしたことで、夢が叶った、
ということである。
その行動とは関係ないかもしれないし
方法も間違っていたかもしれない。
それでも、巡り巡って夢が叶ったのである。
刑務所内との連絡方法は手紙以外にもう一つある。
「本」
オレは、本を書くことにした。