近くのM銀行無人店舗にはATMが3台並んでありまして、
私は真ん中のヤツでマネーを出し入れをしていました。
すると、右隣からお婆さんの声が聞こえて参りました。
「残高は〇〇万〇円です。別の口座ですか? ◯◯銀行のがあります」
お婆さんの右手には携帯電話。9割振り込め詐欺です。
これは、今週実際に起きた事件です。
事の顛末、その手口を、「振り込め詐欺」予防の思いを込めて公開します。
私は残りの1割に気遣って(自分が怪しい格好をしていたこともあって)
直接声をかけずに、インターホンから銀行へ通報しました。
受話器からは事務的な女性の声で
「こちらから遠隔操作でお婆さんのインターホンに電話します。ありがとうございました」
大丈夫かなあと思いつつ、後ろに並んでいる人も居たので一旦店をでました。
銀行も慣れたものだろうから、うまく対応してくれるに違いありません。
それでも暫くは外から様子をうかがっていました。
しかし、行員が現れるでもなく、お婆さんはインターホンにも出ずに操作を続けていました。
ああ、振り込んでしまう。
私は中に入ってお婆さんに声をかけました。
お婆さんは私の格好を怪しんだのか、最初は構わないでという態度でいましたが
「医療費の控除のことで・・・」と事情を明かしてくれました。
「私が話してみます」と電話を替わると、
相手の口調は、当たりの柔らかい事務のおじさんを装っていました。
私:「どういったご用件ですか?」
男:「あなたは誰ですか?」
この繰り返しで埒が明かず、
私は「銀行のものです」とウソをつきました。
男:「本当ですか?」
私:「どういった振込ですか」
男:「本当に銀行の人ですか」
私:「そうです」
男:「個人情報なので・・・」
この辺から相手の男の口調が胡散臭くなります。
私:「そちらは何の方ですか」
男:「不動産屋、敷礼の件」
お婆さんの話と違います。もう詐欺確定です。
私:「こちらからかけ直しますので、お名前と電話番号を教えて下さい」
男:「本当に銀行の人?」
私:「お名前と電話番号を教えて下さい」
ここで電話が切れました。
お婆さんが振込操作を完了する前でした。
一応、警察に報告すると、お婆さんと一緒にそこにいるよう、指示を受けました。
警察を待つ数分間、お婆さんが興奮気味に話しました。
家にいると、役所関係を名乗る男から電話がありました。
「医療費の控除49,000円が口座に振り込まれているはずです。
3ヶ月前に通知を郵送しましたがご覧いただけましたか」
お婆さんは、通知には身に覚えがなかったけれど、心当たりがありました。
昨年、実際に高額医療を受けていたからです。
「今すぐ口座の残高を確認してきてください。ATMの前に着いたら電話をください」
お婆さんは銀行へ行きました。
残高を確認しましたが、49,000円を振り込まれた形跡はありませんでした。
お婆さんは、言われた通り、指定の電話番号へ掛けてみました。
「残高の多い方の口座で今から言う操作をしてください」
「まあ、こんなこと初めて。まさか自分が騙されるとはねえ」
程なく3人の私服警官がやってきました。
2人はスーツ。1人は全身ユニクロでした。
その場で事情聴取が始まりました。
スーツの2人は被害者のお婆さん、ユニクロ刑事は私の担当となりました。
私が全身ユニクロだったからなのでしょう。
そうして、行われたユニクロ対談は、よく見かける光景として街に溶けてゆきました。