皆さんこんにちは。
朝晩寒さが増してきましたね。
風邪などひかれていませんか。
今日は、片麻痺患者様が
1人で外歩けるかどうかの判断基準について、
私が考えることを書きました。
片麻痺患者様における BBS・TUG と屋外歩行判定
― セラピスト視点の「本当に必要な評価」—
片麻痺患者様の屋外歩行を検討する際、Berg Balance Scale(BBS) や
Timed Up and Go Test(TUG) は非常に信頼性の高い評価法です。
しかし、実際の臨床で安全に屋外歩行を成立させるためには、数値の判定だけでは不十分です。
患者様が どの環境で、どの距離を、どの目的で歩くのか、
そして 身体・心理・痛みの変化がどう現れるのか を丁寧に見極めることが
セラピストならではの専門性です。
◆ BBS・TUG の数値は重要。しかし、それだけでは不十分
BBS が 45 点以上、TUG が 13.5 秒以下であれば、
統計的には屋外歩行の自立が期待できます。
しかし、実際の患者様の生活場面はもっと複雑です。
◆ セラピストが見るべき“屋外歩行のリアル”
● ① どこを歩くのか?(環境の違い)
- 自宅周囲のフラットな道路か
- 坂道や段差の多い地域か
- スーパーや病院の混雑した環境か
- 公園や砂利道など不整地が多いのか
歩行能力は環境によって大きく左右されるため、数字だけでは判断できません。
● ② どれくらいの距離・時間を歩くのか?
5 分の歩行と 20 分の歩行では、
筋緊張の上昇・疲労・痙性の出現が大きく異なります。
- 歩行開始時は安定 → 長距離になると痙性が強くなる
- 最後の方で膝が痛む
- 疲労で足の振り出しが急激に悪化する
歩行“後”の状態まで確認することがリスク管理に不可欠です。
● ③ 移動手段:バス?タクシー?電車?
屋外歩行の目的が “移動” である以上、以下の動作も重要です。
- バスの段差昇降、揺れへの対応
- タクシーの乗り降り
- 混雑した道路での回避動作
- 信号の時間内に渡り切る判断力
目的に応じた動作まで想定し、実際の生活を支える評価が求められます。
● ④ 感情・精神機能の影響
片麻痺患者様では、
- 不安が強まると歩行が慎重になりすぎる
- 緊張で筋緊張が上がる
- 人混みでパニックに近い反応が出る
- 気持ちが焦ると歩行速度だけ上がって危険になる
- 人混みなど目からの刺激が多いと痙性が高くなる
など、精神状態が歩行能力に直接影響します。
TUG や BBS では測れない、
“心の状態による歩行の変化” を理解することが大切です。
● ⑤ 歩行後の身体変化(痙性・痛みなど)
屋外歩行の可否は「歩けるかどうか」ではなく、
歩いた後に身体がどう変化するかが最重要です。
- 歩行後に痙性が強くなる
- 足がつりやすくなる
- 膝や腰に痛みが出る
- 疲労で姿勢が大きく崩れる
これらは二次的な痛みや転倒につながる重要なサインです。
◆ まとめ:屋外歩行の判定は“総合評価”が必要
BBS や TUG といった科学的指標は、客観的な判断に欠かせません。
しかし、実生活を想定すると、
- どこを歩くのか
- 何のために歩くのか
- どれくらい歩くのか
- 乗り物の利用はあるのか
- 精神状態はどうか
- 歩行後の痙性・痛み・姿勢の変化
- 二次的な症状リスク
といった、セラピストにしか見えない身体の反応まで含めて評価する必要があります。
これこそが、
リハビリ専門職が行う本当の“屋外歩行能力評価”
だと私は思います。
参考文献
- Berg K, Wood-Dauphinee S, Williams JI, Gayton D. Measuring balance in the elderly: validation of an instrument. Can J Public Health. 1992.
- Podsiadlo D, Richardson S. The Timed “Up & Go” Test. J Am Geriatr Soc. 1991.
- Shumway-Cook A et al. Predicting falls with the TUG Test. Phys Ther. 2000.
- Blum L, Korner-Bitensky N. Usefulness of BBS in stroke rehabilitation. Phys Ther. 2008.
- 日本理学療法士協会 編. 理学療法評価学. 医歯薬出版.