そろそろ研修が始まる時間だと思っていた時、突然怒号が響きわたった。
「おい!貴様ら~早く中に入らんかい!」
学生気分の抜けきらない男達のニヤケた顔が一気に凍り付いた。
皆何が起こったのか、訳のわからない面持ちで、そそくさと大会議室に入って行った。

いよいよ2週間缶詰め状態のパワハラ新入社員研修の始まりだ。

最初に起立、礼の練習だ。90数名の男達が何度も起立、礼をやらされる。起立のタイミング、そして礼の角度が全く揃わない。

「お前ら!何してんねん、何回やればそろうねん❗ボケが❗」

聞きなれない関西弁の怒号の嵐が吹き荒れる。

何十回繰り返されただろうか、次第に全員の息が合ってきた。


「今から社歌や!今からテープ流すからお前ら1回で覚えろ!」

歌詞の書かれた紙など渡されない。

「よし、覚えたか?歌ってみろ!」

無茶な話しだ。誰もいきなり覚えられるはずがない。

誰もまともに歌えない。

「はあ~?何で覚えられへんねん?こんなもん一発で覚えろや!それに声が小さいんや、限界の大きな声で歌わんかい!」

余りに無茶な要求に怒りが爆発しそうだ。

同期の連中は明らかに疲れはてた暗い表情を浮かべ、意気消沈している。

怒号を浴びながら何十回歌わせられただろう、みんな何とか歌えるようになってきた。

人間追い込まれれば不思議と出来るようになるものだ。