子供頃愛されていないんだと
思った出来事




あの時から私はきっと
自分の本当の気持ちに
蓋をして生きていた




父の言葉に
深く傷付いた



ずっと待っていたあの日のこと





嫌いだと思っていた父を
本当は
大好きだった子供の頃の気持ちを

思い出した









小学校低学年の頃
母は競艇場の船券売り場の窓口で
働いていた


夏休み
父に時々連れられて
母の働くところに行った



母の窓口を見つけて
顔を見せるのが嬉しかった記憶





青い椅子が並んでいた
そこに父と座って

大きな音を立てて水しぶきをあげる
ボートが走るのを眺めていた




父が次のレースの券を買いに行くとき
「おまえはどうする?待ってるか?」
そう聞かれて
「待ってる」と答えた幼いあの時の私



青い椅子に座って足をぶらぶらさせて

大人たちの中にひとり過ごしていた





次のレースが始まった

でも父の姿はまだ無かった




その次のレースが始まっても

 
父は戻って来なかった




不安な気持ちを誤魔化すかのように
後ろを振り向くこともできずに
前を見ながら足をブラブラさせていた




2レース待ったのか
3レース待ったのか記憶は定かでない


こわごわと一度だけ
父が来るかもしれない方向に
顔を振り向けた



後ろにいた女性の声が聞こえてきた



「この子のお父さん

ずっと帰って来ないよね」






急に
ざわざわし始めたのを覚えている





蓋をしていたものが
一気に溢れ出して
その場を離れたくなった




通路に出ると
大きな大人たちが何人も急ぎ足で
幼い私に向かってくる




怖くて不安で声を出さずに泣いた



涙が止まらなかった




出来るだけ目立たないよう
壁の隅に隠れるようにしゃがみこんだ



人混みに背中を向けた

誰にも見られたくなかった




誰かが声をかけてくれて
迷子センターに手を繋いで
連れて行ってくれた






場内アナウンスが入り
しばらくすると父が迎えに来た
迎えに来るまではとっても長く感じた





「どうして戻ってきてくれなかったの?」
そう聞くと

父は信じられない言葉を口にした












駐車場へ向かう道すがら
泣かないように必死に前だけを見ていた



出店が並んでいた
「たこやき食うか?」



そう機嫌を取ろうとする口調の父に対して

左手に力を入れてぎゅと握っている私

口も固く閉ざしていた




幼い頃の記憶







この事はたぶん
すぐに忘れて過ごしたと思う
でも40年以上かけて
数回誰かに話して記憶を繋いできた出来事





雑踏が嫌いだった

人が集まって盛り上がる場所が苦手だった


ウロウロしながら
彷徨い歩いて電車に乗るより

車で出かけるのが好きだった

そのことに
深い意味はないと思っていた






苦手だと感じる気持ちは
あの時の記憶に
繋がっていたのかもしれない。。。



そんな風にふと思えたのは




父をお風呂に連れて行った時のことだった

食事をする目の前の少し小さくなった父と
ひとつになった感覚のときだった











3月24日

夫は息子のことで車で東京に
行くことになっていた

私は予定があったので
行かないつもりだった


自分の中にある苦手なことの意味に
気がついた翌日のこと



何も知らない夫が
二泊することになったから
25日は横浜あたりで泊まろうと思う

新幹線で来るか?と聞いてくれた


「行きたい」
そう返事をした




思い込みの気持ちを横において
初めての一人新幹線





駅に向かって歩きながら

花を眺めながら

幸せな気持ちで歩いた




自分だけの価値観の中で

記憶の書き換えをしたかった

楽しい片道の旅にしたかった




ただそれだけ






スマホもあるし
分からなかったら聞けばいいし

行けるとは分かってはいても
私にとっては

したくない


そう自分で思い込んでいた行動











新幹線の窓から眺めた富士山(´∀`)

今までで一番大きく観ることができた



一人で新幹線に乗って
在来線にも乗って

良いタイミングで連絡が来た
神奈川に住む
会いたかった人にも会ってきた







こちらに立ち寄った後
夕方、夫と無事に横浜駅で合流しました




前泊した夫と息子の会話


息子「心配だ。
あいつが一人で来れるのか?」

と言っていたそうな(ノ´∀`*)








記憶に残してきたあの出来事は


たったひとつを思い出す為に


忘れずにいた記憶だった





この記憶がなかったら


私はただ年齢とともに
なかば諦めて対応する娘でしかなかった



頑固で偏屈な父に
うんざりしながら
その日を迎えていたのかもしれない







父に

私が生まれたとき
父はバイクで母の姉を乗せて
病院に向かったと聴いた



迷子になった日よりも以前の記憶が
思い出せるようになってきた




お風呂に父と兄と3人で
手を合わせプシュっと水を飛ばして
真ん中で笑ってる私がいる


海で浮き輪をつけて浮かんでいると
父が手を離した

波がどんどん沖に引っ張っていく感覚
慌てて騒ぐと父が笑いながら 
浮き輪を捕まえ
自然のチカラを体験させてくれた



切手やコインの収集をしていた
一緒にお店に買いに行った

結婚したとき貰ったのを思い出した



私に渡すとき
父は嬉しそうな顔だった


 

今年に入って体調を崩してから
父は少し変わった


今でも時折
父の思い込みの中で
文句や愚痴を聞かされるけれど


以前のような勢いは感じない



少しだけ私を
頼るようになってきた





甘えることが下手な
父のこころの声を

少しは聴こえるようになったのかな




今月
父は88歳になります






父との一日いちにちを
丁寧に過ごせるようになりました







そして
私の苦手だと思い込んでいたことに
向き合った



今の私の一日いちにち






気づきは

私を変えてくれました








お読み下さり
ありがとうございました(*´∀`)