何年も前のことです。
母が珍しくCDを買ってきて、
僕たち兄弟に聞いてごらんと言ったことがありました。
誰？と聞くと
誰だと思う？と。
母が買うのですから、昔のいわゆる歌謡曲に違いなく、
曲調もいかにも昭和という感じでした。
聴いたことのない曲に、聞いたことのない歌声。
いかにもデビューしたてといった、女の子の不安定な歌唱力には、
特別な魅力も感じられなくて、
なぜ母が、僕たちに聞かせたいのか、わかりませんでした。
母は、
「まあ、もう少し聞いてみて、驚くから」と言うのです。
意味がわからないまま、
僕たちはベストコレクションと思われるCDの曲を
順番に聞いていきました。
何曲か聞いていく内に、
さすがの僕たちも、気づきました。
これって、山口百恵？
「ビックリするほど歌唱力が上がっていくよね？」と、
母は言いました。
「上手い人には、最初からその気配があるし、
歌唱力不足の人は、伸びても限りがあるもんだけど
彼女だけは違ってた」と。
先日、タイヤを冬用に換えようと実家に帰った時、
ふとそれを思い出しました。
母からＣＤを借りて、神戸への道中、もう一度聞いてみると、
彼女の歌声の変貌ぶりに、あらためて驚嘆しました。
彼女の歌手生活は、１３歳から２１歳までの、わずか７年半だったとか。
リアルタイムでは聞くことのなかった彼女の歌。
歌手では無理と言われた、素人の少女のたどたどしい歌声から、
カリスマ性あふれる、あの山口百恵の歌声に。
天職は人を呼び寄せるのだそうです。
人はその人生計画の中で、就こうとする職業を決めて生まれ、
そしてあるタイミングで、その仕事に呼ばれるのだとか。
彼女は歌手という天職に呼び寄せられ、
その使命を果たし終えた人だったんだろうな、と、
聞き入りながら思いました。
聞く人の魂をゆさぶる、とびきり大きなものを届けるために、
彼女の歌声は、あれほどのカリスマ性を帯びたんだ、という気がします。
そして、妻として母としての、ふたつ目の使命を果たすために、
７年半という短期間に見事な変貌を遂げられたのだ、という気がします。
誰もが彼女のように、
特別な使命を計画してきたわけではないでしょうが、
誰もが持っている、それぞれの使命、
見つけるお手伝いをさせていただければ嬉しいです｡ﾟ･:,｡☆ﾟ･☆。
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