さよならと言えなくて(チャチャと花子5) | 手相カウンセラー 井田東吾

手相カウンセラー 井田東吾

あなたの心に希望の灯をともす、運命カウンセリング。
手相をメインとした多角的鑑定です。


※今週は手相&人相から脱線して、犬のお話をさせていただいています。
よければ、『伝説の犬(チャチャと花子1)』 から読んでみていただけると嬉しいです。



花子もチャチャと同様に、
鎖につながれることなく、伸びやかに人間達と過ごしていました。

田舎の僕の家は、大叔父の家とは目と鼻の先とはいえ、
日頃あまり花子がやってくることはなくて、

ごくたまに、学校帰りに行き会うと、
お付き合いのように一緒にやってきて、
玄関先で、母から何かおやつをもらって帰っていく程度でした。


そんな花子がある日の夕暮れ時に、
ふいにやってきたことがありました。

ちょうど夕食の支度に追われていた母は、
いつものように花子の喜びそうなおやつを探す暇がなくて、
「ごめんな~何にもないわ、花子さんに謝っといて」と、
台所から僕に言いました。

それでもしばらくの間、
めずらしく花子は僕の家の前に、じっと立っていました。


思えばその頃、花子はもう老齢だったのでしょう。
大叔父の居間のこたつの一辺に、花子専用の座布団を敷いてもらって、
そこでくつろぐ時間が多かった記憶があります。

その日も、夕暮れまではこたつにいたのだそうです。

そして、いつものようにさりげなく、こたつのそばから立ち上がり、ゆったりと家を出て・・・・

そして、それきり、
花子は大叔父の待つ家には帰りませんでした。


車にひかれたんじゃないか、とか、
山で仕掛け罠に足を挟まれて動けないんじゃないか、とか、
誰かに連れて行かれたのかも、とか、
みんな心配しながら、ずいぶんあちこちを探し回りました。


でも、やがて、
その日の夕方、いなくなる前に、
花子が知り合いの家々を順に巡った事がわかってきました。

僕の家も、その時に立ち寄ってくれたのです。

花子は自分で出て行ったのだと、みんなわかりました。
きっと歳をとって体調が悪くなって、
みんなにお別れをして回ってから、
どこかへ去ったのだとわかりました。


それでも兄は諦めきれず、
山を越えた隣の町から通ってきている担任の先生に、
通勤途中で白い迷い犬を見かけたら教えてほしいと、お願いしていました。

そして僕は、花子が最後にたずねてきてくれた日に、
どうしてあのときに限って、おやつをあげなかったのだろうと、
後々まで心が痛んだのを覚えています。


その後何週間も、夜になると大叔父の口笛が聞こえていました。
山で迷った犬を呼ぶときの『帰ってこい』の口笛でした。




その後も大叔父は、寂しさを埋めるように何匹か犬を飼いました。
でも、チャチャと花子のように
人間のような魂を感じさせる犬は二度とあらわれませんでした。



今は再び、大好きだった大叔父のそばに、
チャチャと花子はいるはずです。



鮮やかな印象を残して、我が家の伝説となった2匹の犬、
チャチャと花子のお話はこれで終わりです。

1週間、昔の犬たちの話にお付き合い下さって、
本当にありがとうございました。