10/21その1 | 怪談サークル とうもろこしの会

10/21その1

国見温泉を早めに出て、乳頭温泉を目指す。

この二つはけっこう近い。強引に直線距離にすれば10KMくらい。
東京なら問答無用で歩いていく距離だが、そこは秋田。
真ん中に駒ヶ岳がでんとそびえているので、ぐるり迂回しなくてはいけない。
車でも1時間半かかるのだから、平地人としては戦慄たらしめられる。

途中、田沢湖付近を走っていると、カーナビに「金色大観音」の文字。
道路脇の看板にも「日本一の大観音」と書いてある。
どんなに多忙でも、こんなものを見つけたら調査しなくてはいけないのが怪談サークルの厳しい定めだ。
「一見、華やかな世界に見えるかもしれないね。だけど裏では、たまの旅行も仕事に追われるのが実情なんだよ」
だから僕は若い人たちには、いつも怪談サークルの運営を薦めないようにしている。
趣味の範囲にとどめておくのが賢明だよ、とね。

それはともかく金色大観音へ行く。
ゴルフ場とホテルの脇にある、妙な施設だ。
入場料800円とあるが、受付には誰の姿もない。
声をかけても反応はないし、全く人の気配がしない。
仕方ないので、そのまま中に入る。
広大な敷地には、人影の一つも見えない。
しかし事務所のような建物を覗くと、大きな仏壇にロウソクが数本ちりちりと燃えている。
そんな中、幾多郎をアーケード商店街風にアレンジしたような音楽がスピーカーから流れている。
遠くには金色の大観音が見える。
現代のマヨイガ?
怖い。

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「あの世ってこんな感じなんだろうな」感と同時に
意味の分からない場所に取り残されているので
ここでいきなり屈強な男どもにゴミ袋をかぶさせられて拉致られても
世間の誰も何も気付かないだろうというホステル的な恐怖も喚起させられてしまう。
とりあえず観音様だけにはお参りし、そそくさと帰ろうとすると、壁に「幻想宮殿 ⇒」の表記が。
いわゆる胎内巡りのようだが、強烈に嫌な予感がする。
しかしこういうのを見つけたら調査しなくてはならないのが、怪談サークルの鉄の掟だ。

入り口を覗いてみると、電灯も点っておらず昼なのに異様に薄暗い。
「すいませーん」
係の人でもいないかと呼び掛けてみるも、何の反応もない。
廃墟に入る心持で、恐る恐る入場してみる。
暗い室内に、ぼんやりと大きなガラスがはめこまれた部屋が見える。
と、いきなり大音量で音楽が流れ、文字通り飛び上がるくらいに驚く。

奇妙な音楽とともに、ガラスの内部に水が流れ
内部にあった大仏が、ストリップっぽい色とりどりの照明で照らし出される。

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じっくり見てください、ということなのか、ガラスの前には椅子が2脚だけ置いてある。
そそくさとそこを後にし、別の部屋へ。
また薄暗い部屋に、今度は大僧正のような人形が見える。

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「どうせまた音と光で驚かすんだろ!」
とばかりに、センサーにひっかかるよう飛び込んでみたのだが、何の反応もない。
フェイントを食らわせられた気分で佇んでいても、ただただ大僧正が沈黙するばかり。
意味が分からず、気まずい。
次の部屋に入ろうと覗いてみる。
するともう全くもって真っ暗な通路が続いていた。
完全にお化け屋敷のノリである。
まあ、もう驚かされることもないしな、と入ってみると。
いきなり大きな音が響いて、本当に悲鳴をあげた。
フェイントのフェイントである。
するとなんだかディスコっぽい照明とともに、仏像が照らし出される。

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もう嫌だ!と飛び出すと、また別の部屋へ。
ぼうっと明かりが灯ったかと思うと、ガラスケースに西方浄土と仏像が照らし出された。

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そして「阿弥陀様を讃えなさい」といった趣旨のアナウンスが流れて
「阿弥陀様の前の水晶に、あなたの顔を写して願いを込めるのです……」
確かに一段高くなったところに登ると、仏像の前の水晶に自分の顔が映された。

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しまった!
この水晶はカメラになっていて、リアルタイムで
金色大観音の会員である世界中の狂った大金持ちが
僕の映像を見ながら、いくらで落札するかのオークションを始めたに違いない。
縛り付けられた状態で、体のあちこちを工具で拷問されてはたまらないぜ。
そう思って、そそくさとそこを後にする。
逃げ帰る途中、受付を横目に見ると、おじさんが中から訝しげにこちらを睨んでいた。


その後、色々と温泉にも立ち寄ったのだが、それはまた別の機会に。