10/30 | 怪談サークル とうもろこしの会

10/30


日本橋の駅近くを歩いていると向こうから、両手いっぱいの大きさの箱を抱えた少年が全速力で走りよってきた。
「上野の八百屋なんですけど、オレンジを買いませんか!」
ものすごい笑顔で僕に声をかけてくる。
見ると確かに、箱いっぱいにオレンジがぎゅうぎゅうと詰められている。
こんなものを抱えて、あのスピードで、上野から走ってきたのかと思うと寒気がした。
それでもオレンジを買う気はなかったので
「いや、僕、貧乏なんです……」
口をごもごもさせながら煮え切らない返事をすると
「じゃあいいです!」
と爽やかな大声を残して、少年はまた走り去って行った。