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一週間前のこと。
バイト帰りの疲れた足でノロノロと家路を歩いていると、突然、遠くから人々の叫び声にまじった重低音が響くのが聞こえた。折りしも有名な心霊スポットである千駄ヶ谷トンネルのすぐ近く。すわ何かの霊的現象かと鳩森神社から音のする方角へと駆け寄っていくと、国立競技場から何本ものサーチライトの光が下から突き出しているのが見えた。気がつくと千駄ヶ谷駅から競技場まで、人々の群れが途切れなく続いている。彼らの服装と持ち物から、この現象が何なのかが判明した。
嵐だ。
嵐という名称の、女子から大人気を博すアイドルグループのコンサートが、この国立競技場で行われていたのである見れば周囲は圧倒的に女性が多かった。夏休み最後の思い出でもつくりにきたのか。このライブの轟音。何百メートルも先から、音楽やMCの声まで聞こえてくるのだから物凄い。これなら会場に入れなくても、それなりにライブを堪能できてしまうほどだ。周りにいる女子の群れにしてからが、チケットを取れないにしても外にこぼれる音を楽しもうという、ウッドストック的な目論見の集団なのだろう。
周辺には男もいるが、その半分はダフ屋なのだろう、まとっている空気がまったく楽しげではない。周りがハレなのに、彼らだけがどんよりしたケの顔をしているのが見てとれる。おそらく傍から見れば、僕の醸しだす空気も似たようなものだったと思う。
そういえば、ここに住んでいるホームレスのオジさんはどうしているのだろう。競技場の壁沿いに、かなり立派な段ボールハウスを作って暮すオジさんがいるのだ。あそこなどもっと狂乱した人々で溢れかえっているだろう。熱気で半狂乱になったファンに、飼い猫ごと踏み潰されてないといいけど。気にはなったが、人波をかき分ける体力は僕にはなかった。そのまま総武線の高架をくぐり、新宿御苑の脇の薄暗い道を、缶チューハイをじゅるじゅると飲みながら帰っていった。
そして今日。嵐のコンサートで新型インフルエンザが集団感染した可能性もあった、というネットの記事を読んだ。共演したNEWSというアイドルグループの人間がインフルにかかっていたらしい。まあ、コンサート自体はもう一週間も前のことだから、結果として集団感染は大丈夫だったのだろう。いや、良かった。本当に良かった。
良かった。