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しばらく前の話だが、新品の靴を買った。持っていた靴の全てがグズグズに溶けるかと思うほどに壊れてきたからだ。
そこで気付いたのだが、買ったばかりの靴というのは、臭くない。当たり前だとかそういうことでなく、本当にまったく臭くない。驚くべきことに、いくら夏の暑い時分に汗をかきかき日がな履いても、脱いだ時にまったく足が臭くなっていないのだ。僕は足の蒸れが人より強く、そのぶん匂いもキツい方だと自分で思っていたのに。どうやら、それは間違いだったのではないか?
だが、しばらく生活を共にし続け、あるいは餓鬼洞という海岸沿いの洞窟を探検したり、あるいは豪雨の中でキャンプしたりなど、過酷な状況を経ていくうちに、新品だった靴も次第にくたびれていった。すると、十分も履けば足が蒸れて臭みを放つようなブツになってしまったのだ。
これはつまり、と僕は思う。僕は自分の足が臭いものだと自覚して暮らしてきたが、僕の足それ自体は決して臭い訳ではなく、ただ古びた靴の中に潜む雑菌のようなものが足裏に付着して、それが臭いだけなのではないのか?僕は体質として、けっして足の臭腺の強い人間ではないのではないか?今までずっと臭いと思ってきたのは、いくら靴がボロボロになっても何年もしつこく履き続けていたからではないのか?僕が臭かった疑惑は間違っていた!冤罪だったんだ!僕は悪くない!悪いのは全部、靴だったんだ!
スニーカーって、どうやって洗えばいいのだろう。