夏祭り | 怪談サークル とうもろこしの会

夏祭り


子供の頃から夏祭りが嫌いだった。
ヤクザがシャブをきめながら調理して、蝿がとまりまくった
ソースの味しかしない食べ物が500円もするという
理不尽きわまりなさが大嫌いだった。
それでも、大人になってから好きになろうと努力してみた。
とある女子を夏祭りに誘ったこともあった。
これは僕としては凄いことだ。
なにしろまだ付き合っていない女子に
二人で祭りに行って遊ぼうと誘ったんだぞ。
普通の人のデート誘い難易度に換算してみれば
お互い高校生なのに
正装でしか入れないレストランのフルコースディナーに誘う
それ位の気力を使ったのだが
「パニック障害ぎみで人ごみが無理」
あっけなく、そう断られた。
それなら仕方ない。
一人ででも夏祭りを楽しもうと
とぼとぼ夏の夜の境内を歩いていると
誘った女子が別の男と並んで
楽しげに喋っているのが遠目に見えた。
「ああ良かった、彼女、パニック障害が治ったのだな」
良かった、本当に良かった
そんなホッコリ暖かい気分で見つめていたところ
突然、激しい吐き気に襲われて
神社の裏の林に腹の中のものを全部ぶちまけてしまった。
おそらく直前に食べたイカ焼きが傷んでいたのだろう。
まったく夏祭りは野蛮で困る。

そんな夏祭りに、また迷惑をかけられた。
先日の夜のこと
世間はお盆休みで浮かれているというのに
僕は副会長と二人で、1時間も電車に揺られていた。
お互い特に話すこともないので
電車内でぐびぐびと缶チューハイを飲む。
一応、乗客に迷惑をかけないよう僕はさっさと缶をあける。
「炭酸なのに飲み終わるの早すぎるだろ?炭酸だぞ、バカ」
副会長が意味の分からないところで絡んできたが
いまだチンタラ飲み続けているので、端の席に座らせた。
乗客に彼の酒臭い息がかからないためだ。
それが幸いした。
次の駅で夏祭り帰りの乗客がどっと乗り込んできて
その中の一組のカップルが僕らの横に立ったのだが
このカップルがひどかった。
見たところ30近い大人なのだが
成人式の後の若者かというくらい
二人ともでろんでろんに酔っ払っており
電車がブレーキをかけるたび
端に座っている副会長めがけてダイブしてくるのだ。
そして一言も謝らずにまた手すりを頼りに立ち直る。
特に男の方は酔いがひどく
手すりを軸にして電車の揺れに合わせてグラグラ回りだす始末。
右に左に振り子の要領でだんだん揺れが大きくなり、
ちょっと捻りが加わると、頭から副会長の顔に近づき
あとちょっとでキスしちゃう!な体勢で数秒固まったりする。
こういう状況をどこかで見たな、と思ったら
以前にアメリカのドキュメンタリー番組で見た
よぼよぼのお婆さんストリッパーが
一生懸命ポールダンスしている映像にソックリだった。
幸い、被害は端に座った副会長のみで
僕にはぶつかってきたりはしなかったので
怒りに震える副会長の顔ふくめて
どちらかと言えば愉快な状況ではあった。
だが、なんだろう。
「夏祭りのカップル」というものが
どことなく僕の怒りの琴線に触れたので
男がこちらに倒れこんでくる度に
ちょうど男の体がくる位置に僕の拳骨をたてておき
自動的に背中にワンパン食らわせ続けていた。
が、男はよっぽどアルコールが入っているのかバカなのか
いくら背中に拳をぶつけても構わず倒れこんでくる。
そのタフさが余計に苛ついたので
中指の第二関節だけを突き出す
中高一本拳で対抗する。
これでピンポイントで脊髄にめりこむぜ。
が、そんな僕の空手殺法にもめげずに
うえ~などと呻きながらバシバシ倒れこんでくる男。
どこまで出来るのか確かめたくなったので
僕はバッグからボールペンを2本とりだし、1本を副会長に持たせた。
そしてペン先を出した状態にして上に向けて
男が倒れれば背中やわき腹にボールペンが刺さる状況を作り出してやった。
しかし男はいくらボールペンが刺さっても構わず体ごと寄りかかってくる。
本当のバカか、こいつは。
カーブのたびにこちらに倒れこむ男。
そこに刺さる2本のボールペン。
上に向けたボールペンを無言で持つ僕たち。
そんな中、さすがに女の方が僕らに気付いて
なんだか頭のおかしい状況になっていると気付いたのだろう。
次の駅でそそくさと降りていってしまった。
勝った。
僕は勝ったのだ。

今後も、夏祭りが迷惑をかけてきようものなら
僕は断固として戦うことを、ここに誓う。