便座 | 怪談サークル とうもろこしの会

便座

これは、すごく不謹慎で非道徳的なことかもしれない。
でも、書く。
告白する。

車イス用のトイレで寝るのが好きだ。
たまらなく好きなのだ。

もちろん、公衆トイレや公共の施設のトイレは使わない。
よく出入りして見知っているようなビルのトイレなど
ほぼ確実に車イス利用者がいないと分かる場所を選んでいる。
それに寝る時間もせいぜい10分程度だ。
車いすの方々に迷惑をかけないよう、
細心の注意を払っているつもりではある。
分かっている。
そんな言い訳をしたところで
許されざる行為には違いないことを。
でも止められねえ。
止められねえんだ。
人は僕をこう非難するかもしれない。

“普通のトイレで寝ればいいだろうが!”
おめえは分かってねえ。
おめえは何にも分かってねえ。
普通のトイレというのは背もたれが無いんだよ。
無いというか、蓋なんだよ。
あの卵っぽい形の薄っぺらいカパカパな。
しかも背をもたせる部分が蓋の内側だから
周縁が平たい凸部分で縁取られてて
体重をかけると背中が痛いのなんのって。
人が背をもたせる状況を意識した心づかいある設計とは
とても言いがたい場合がほとんどだ。
その点、車イス用トイレは
背もたれ部分にクッションが設置されている上に
片手部分または両脇に手すりが取り付けられているので
背中を伸ばしながら快適に眠ることが出来るのだ。

“前のめりになって寝ればどっちでも一緒だろうが!”
ばか。
大ばか。
お前はトイレで寝たことがないのか?
便座ってのはドーナツ型になってるだろうが。
そんなとこに座りながら前のめりに寝てみろよ。
尻の周り部分のみにモロに体重がかかって痛くなんの。
それが血流を止めて足も痺れちゃうの。
だから背もたれを使って体重を分散させることが必要なんだよ。
疲れをとるために寝てるのに、何で尻を痛めなきゃいけないの?
トイレで寝ることに関して、もうちょっと真面目に考えてくれ!

“そもそも何でトイレで寝るんだよ!”
うん、よく訊いてくれた。
やってみるといいよ。
そうすれば君にも分かる。
「トイレで寝る」もっと言えば「便座に座って寝る」
つまり「尻まるだしで排水口の上で寝る」
さらに言えば
「ウンコもオシッコもしていい状態で寝る」
ということなのだ。
寝ながらオシッコしたってウンコしたって
便座の上なら全くノープロブレムなのだから。
お漏らしという概念の存在しない世界。
それが便器で寝る世界。
なんて素晴らしい。

そうだ、君も一度
ビールを大量に飲んでから便器で寝てみるといい。
そして夢の中でオシッをしてみるといい。
普通なら絶対に見てはいけない夢だ。
(わああ!お漏らししちゃったあ!)
君は慌てて目覚めるだろう。
でもそこは便器。
(うっひゃ~よかった~)
ちょっと床に飛び散ってる以外は、全く問題なし。
癖になる、この解放感。

僕などは現在、大きい方も夢の中で出来ないか特訓しているところだ。
ただ、車いす用トイレを使用しているため
あまり寝る時間を割くわけにはいかないのが痛いところ。
まあ、仕方ないだろう。
大人の社会人たるもの
公共のマナーやルールを守り
他者の権利を尊重しなければならないのだから。

この社会で共に生きる皆
おやすみ、よい夢を。