ドキュメント漫画喫茶3
また例によって、いつものマンガ喫茶に出向くと、実況さんの様子がいつもと違っていた。
実況さんとは、僕がよく行くマン喫のオープン席にいるネットゲーマーで、自らのプレイの様子をマッシブな声音で実況してくれるサービス精神溢れるお兄さんだ。僕はネットゲームをやらないのでよく判らないのだが、強敵を倒したか貴重なアイテムを入手したかの時には、実況中継からケツメイシの桜なんちゃらいう歌を大声で唄うモーションに切り替わるので(ああ、パチンコでいう確変モードに突入したんだな)と、すぐ分かる。そんな実況さんだが、今回は様子がおかしかった。 いつもは淡々とありのままのプレイを実況している彼なのに、「はあ!?これ、はあ!?なんなん!おいちょ、ふざけ!」ノイズのように黒い感情が入りまくっているのが傍から見てとれる。「っだよこれよお!!」そんな叫びとともに机を蹴りつける実況さん。その勢いで、ちょっとだけキャスター付の椅子が実況さんごと後ろにツーっと動く。その時、オープン席スペースには彼と僕しかいなかった。目を血走らせたまま実況さんが、いつも着ている釣り師かってくらいポケットの多いジャケットの、そのポケットの一つに手をつっこむ。ナイフだ!バタフライナイフを出す気だ!嫌な汗がブワっと吹き出す。僕は椅子に座ったまま体を緊張させ、いつでも実況さんの顎先を平手で打ちぬく覚悟を固めた。グラップラー刃牙の中で「平手で顎を素早く打てば脳ミソが揺れる」とかなんとか言ってたのを思い出したのだ。すると実況さんは、ポケットから白いケースを出して手の平の上で叩き出した。フリスクだ。そのまま5粒ほどをバリゴリ噛み砕き、またパソコンのモニターに向かう実況さん。フリスク、シェプンジュアッ。