ドキュメント漫画喫茶2 | 怪談サークル とうもろこしの会

ドキュメント漫画喫茶2

 

そんなこんなで平日の昼間の漫画喫茶に足しげく通ってる僕だけれども。

先週の金曜、大事件が起きたのだ。

 

その日は、いつものように朝7時頃に気持ちよく起きた。そのまま着替えもせず、歌舞伎町まで早足で早朝の爽やかな空気を吸いに出る。ちょうどカラスが一番元気に動く時間、無数の怒ったような鳴き声と羽音が混ざり合って一日の始まりを高らかに知らせてくれる。噴水広場に寝ている若者を横目で見ながら漫画喫茶に入店。店員が「いらっしゃいませ、禁煙席ですか喫え」聞いてくるのを遮って「オープン席で。時間はフリー。ネットはしない」ぴしゃりと決める。出来る男の朝は無駄がない。

オープン席ゾーンは当然のように喫煙席だ。非喫煙者である僕にとっては辛いが、値段がかなり違うので仕方がない。一度などは、隣に座った奴がモンハンに熱中しすぎたのだろうか。火がついたままのタバコを灰皿に置きっぱなしにしているのに、また新しいのに火をつけて、それをまた灰皿を置きっぱなしにする、を繰り返されたこともあった。異常な量の煙がひっきりなしにかぶってきて、僕は、穴の中の狸を煙でいぶしだす昔話を思い出した。

前の日記にも書いたが、平日の昼間にオープン席にいる人たちというのは、あまり気持ちのいい連中とは言えない。異常に真剣にネットゲームをする余り、一定の間隔で怒り声か笑い声をかなりの音量で間欠泉のように噴出する人やら、精神がちょっと変なとことオンラインで繋がったのか虚空に向かってブツブツ一人チャットしてる人やら、もしくは地方都市のオシャレ犬といったていのホストが寝ているか、ばかりである。コイツらとは全くもって一緒にされたくない、と、皆がお互いそう思っているだろう空間が、平日昼のオープン席だ。

まあ、そんな平和といえば平和な場所で、僕は席に着いた。新刊マンガを8冊ほどタワーにして、上から順に読破して突き崩していく。一時間あたりのコストパフォーマンスを良くするためにも、ノンビリとは読んでいられない。真剣勝負だ。そうこうしていると、遠くから何人かの足音が聞こえてきた。それに混じって、ひそひそ声ではあるが勢いのある外国語らしき言葉も。見上げると、席と席の間の狭い空間。そこに、業務用らしき大きなビデオカメラを構えた外国人がいた。その後ろからは、モコモコしたカバーの付いたマイクが突き出されている。4人の外国人は、無言で目配せしながら、ゆっくりと舐めるようにオープン席スペースを撮影しだした。ドキュメンタリーだ。僕たちの間に緊張が走る。ある者は顔をそむけるようにモニターに近付け、リクライニングにもたれかかっていた者は体を起こした。

しかしカメラマンは外人特有のフランクさで近づいてきて、僕たちの様子を押さえていく。監督らしき男の顔を見ると、ちゃんとしたアーティストらしく立派な髭をたくわえていた。おそらく彼は、この日本特有の文化をニュースかなにかで紹介するために、この映像を撮っているのだろう。いや、もしかしたら、こういうタイプの日本の若者をテーマとした、ドキュメンタリー作品を創ろうとしているのかもしれない。タイトルは「MANKITSU」だ。完成した暁には、山形国際ドキュメンタリー映画祭に出品するだろう。そして審査員特別賞あたりを受賞して、最終日のパーティーでそれなりにチヤホヤされるだろう。ドキュメンタリー好きの硬派な文科系女子の一人や二人、モノに出来るかもしれない。僕たちを撮った映画で。僕たちを写した映像で。

ふと気付くと、僕は立派なマイクのモコモコした部分を引きちぎっていて、それを監督の髭に押し付けていた。ホワッツ?みたいな顔をした監督を無理やり椅子に座らせて思い切り蹴り飛ばす。キャスターを滑らせながら壁に激突した監督の頭に、吸殻と火がついたタバコを撒き散らしながら灰皿が落ちる。撮影スタッフは助け起こそうとするが、ネットゲームの連中の巨体が邪魔でなかなか前に進めない。僕は最後にカメラを床に叩きつけると、フリードリンクのリアルゴールドを機械の大事そうな部分に流し込んだ。一瞬、火花が見えた後に、白い煙が細く立ちのぼった。

バキの最新刊を読みながら、そんな想像をしているうちに、撮影隊は帰っていった。たかが10分弱ほどだったが、その間にバキを丸々一冊読み終わってしまった。あんまり早く読み終わり過ぎるので、これからはバキはコンビニの立ち読みで済ませればいいや、と僕は思った。