どうでもいい都市伝説
図書館で「アメリカの奇妙な話」という文庫本があったので借りて読んだ。
面白かった。
特にシリーズ第一巻の一番初めの都市伝説の項。
目次だけチラリと見た時点では、深いため息をついて本をコタツの上に立てる形で置いて
「都市伝説?なにそんなのイのイチに持ってきてきてんの?俺は怪談サークルの会長だよ。お前のしようとしている話なんて全部知ってますに決まってますから。はあ~あ~、もうさあ、ガッカリさせないでくれよ。いくらタダで借りてるからって、こっちは時間を消費してるんですからね。お客様の読者様には違いない訳ですからね。それ客をナメてるってことだよ?違う?違くないよね?俺の言ってること間違ってないよね?もしもーし?耳ついてますかー?あのさあ、もっとさあ、シッカリしてくれよお!頼みますよお!ほんとうにさあ!」
髪の毛かきむしりながら説教したんだけど、読んでみたら知らない話ばっかりでビックリ。
都市伝説はだいたい漁りつくしたと思っていたのに……。
だってさあ、内容は言わないけど「真ん中の男」とか「消えた客室」って話、知ってる人いる?
超有名な話らしいんだけど。
いるかな?いないよね。どうだろう。
確かに、本の中で筆者自身もいけすかない友人達に「それ、100年位前からある有名な噂話ですよ(笑)別に珍しくもねーのに今さらですか(笑)」みたいなムカつく指摘をよく受けてるのだが、翻訳本なので原著が出た時点はけっこう古い。その時間的ハンデがある上で、俺、全然1ミリも知らないでやんの。
まあ都市伝説というのは奥が深いもので、たいていの話は知り尽くして耳にタコだよと思っていても、地域や職業や文化が違うと、ひょっこり見も知らぬネタがあったりする訳だ。
例えば、出版業界では有名な「象の領収書」って話があるけど、あれ一般でも知られているのだろうか?バブル時代に、タイに取材に行った編集者が但し書きに「象」だけ書いた領収書を提出したという話。(これは会社も個人も限定されているので実話のセンが濃厚なんだけど)
あとは銀座限定の都市伝説なのかどうか分からないけど、銀座のブティックが舞台と言われる「毛皮モデルのバイト」の話とか。一応、銀座のバージョン以外では聞いたことがないんだよなあ。
「30年ほど前の銀座の、毛皮専門店。そこで、まだ売れてないモデルの女の子が、コートを着て店頭に立ってるっていうバイトをしていた。しかしある日を境に、女の子がプッツリとバイトに来なくなり、連絡もとれなくなってしまう。仕方なく店主がアパートまで訪ねたところ、女の子が部屋で一人で死んでいるのを発見する。死因は、異物が喉に詰まっての窒息。毛皮のコートから飛んだ繊維が、どんどん胃に毛玉として溜まってしまい、それが寝ている時に一気に吐き出されたため、と警察は推測した。四六時中、毛皮を着ていたために起こった悲劇である」
書いてみると、そうとう下らない話だな、これ。猫かよ。リアリティーのかけらもないから、全国的な広がりをもつ都市伝説にならなかったのだろう。毛皮専門店のモデルのバイトってのも、変なディテールだし。
そういった都市伝説に上手くなりきれていない都市伝説の卵は、もしかしたらまだまだ未採掘のものが沢山残されているかもしれない、とも思う。
そういったものを「シリーズ・どうでもいい都市伝説」としてメモしていこうかしら。
例えば「マックのコーラはコカコーラ社から無償提供されてるから原価はタダ」っていうのもね。これ、マックでバイトしてた人も本当だよって言ってたから、事実のセンも強い。マック系の都市伝説としては珍しく、裏がとれる話ではあるのだが、逆に裏がとれるというのがまた都市伝説っぽくない。ミミズ肉なんかの誹謗中傷系と違って、別にコーラ無償提供されててもいいじゃない、って感じだし。弱い。
そして個人的に、真実はどうなの!?ってのを一番知りたい都市伝説が「関節の骨をポキポキならすと体に悪いかどうか」だ。自分もお婆ちゃんからも言われてたから、めちゃくちゃ古い都市伝説なのに未だに決着がついていない。なぜ決着がつかないのかというと、皆にとっては本当にどうでもいいからだろう。僕はポキポキが好きなので気になっているのだが……。まさにキング・オブ・どうでもいい都市伝説である。
これからも「シリーズ・どうでもいい都市伝説」を沢山集めていこうとは思うが、どうでもいい話ばっかりだから、知ってても人気者にはなれないだろう。